その41【初代様と多紫町】
蒼さんは、もうちょっと時間がかかかるって話で、僕らは先に社を出て、ひとまずお屋敷に向かった。
また再び、町の人の安全の為に、剣は取り上げられたけどね。
良いけど、特に使う用事もないし、それに、剣もさ、気まずいと思うんだよ、急に僕に話しかけてしまったからね、その後、ミスったって思ったのか、一言も喋ることもなくて、そんな剣に気を遣ってながら、
「剣が急に話しかけてくるからびっくりしたよ」
って思わず呟いたら、
「何言ってんの?」
とか、本当に酷く頭を疑うみたいな顔と声で葉山に言われてしまうし、焔丸くんも、四胴さんまでも、怪訝な顔してるし。まあ、良いよ、僕の聞き違いって事で、でもちゃんと意思の疎通はできた感じはしたんだ、でも、もういい、この件については黙っておこう、って思った。いやだって、信じてくれない人に何を言ったって無駄だからね。
ともかく、だよ、今は僕と焔丸くんと四胴さんの3人で大槻のお屋敷に向かってる途中なわけだけど、その途中で、特に四胴さんからは色々と話を聞いた。
特に、初代微水様の事。
あの青鬼さんは、ちょうど僕と蒼さんが戦って、結果的に僕が勝ってしまって、蒼さんの当時持っていた『浮鴉』を斬ってしまった事で、目覚めさせてしまったんだって。
あれは、自分の化身で魂を封じ込めたもので、役割としては『警報機』だって話しなんだ。
初代微水様は、この町が安定して、時代が戦国の世から、太平の世に変わった時に、自ら、ここの神社に封印したんだ。
この町だって、平和な世の中になれば、どこかの領地の一部になって、世間に混ざって行った方が幸せだろう、ってそんな時に『鬼が住む町』なんて、誰も寄り付かないだろ?って話で、初代様は自分の技術の一部を町の人間に託して、自身は眠りについたんだ。
で、そこで、寝る前に、自分の分身とも言える1対の刀を造り出し、もし、これが折れたら、ではなく、斬られることがあるなら、俺は目を覚ます、って言ったんだって。
もちろんそれはこの町の人間が知っていて、長く語り継がれることになるんだ。
ここで凄いのは、その話が決して伝説や伝承、まして昔話になる事もなく、確実にあった事実として、この町の記録として語り継ぐ事ができた事。
徹底して、伝えたのは、この町は鬼である初代微水様によって守られていたこと、そしてその微水様は今もこの町に眠っている事、何よりこの町に何かある時は必ず再び町を守るってことをこの町に住む全ての人との約束していると言う事。
そして、唯一、初代微水様の思いが果たされなかったのは、この町をここに住む人間達は隠し続けた事。
決して、近隣の村や町、に知られる事なく、また、この町に住む人間の優れた戦闘能力によって、時の政府とギブアンドテイクな関係になって、あくまで一般には秘密の町としてその存在を続けたんだって。
つまりみんな、この町を守りたかったんだよ。
このまま町を開示してしまったら初代微水様がここにいるのがバレてしまう。優しい鬼だけど、決して世間はそうは見ない事をみんな知ってたから、やっぱりこのまま隠れていよううって事になって、現在に至っているんだって話し。
結局さ、初代微水様は、この町の人間を、この町の人間は初代微水様を守りたかったんだね。
だから、初代微水様の眠る神社は、みんなで手入れして、本当にいる守り神様として奉られていたんだって。
ちなみに一番最初、初代微水様を見つけたのは、ここにいる四胴さん。
一人で、境内の掃除をしていたら、寝ぼけた初代微水様が、社から出てきで、『水くれ』って言ったらしいよ。
四胴さんもびっくりしたけど、ずっとその話は聞いていたから、初代微水様に、自分で飲むつもりの、水筒を渡して、みんなを呼びに行って、現在に至っている。
ちなみに、その晩から、町を挙げてのお祭り騒ぎだったそうだよ。
誰も驚かない、誰も怖がらない。そして蒼さんには直ぐに連絡が入って、様々な形で確認が入って、その一環で蒼さんのお祖母さんの褐さんが北海道入りしたって訳だよ。
その褐さんが、僕についての安全性というか、その辺の話をしたら、初代微水様は、
じゃあ一回、顔貸してもらおうかって話になって、じゃあ、蒼さん里帰りするかって話に、一心さんとか紺さんとか、みんな乗っかって来たって事だよ。ついでな訳だね。
でもって、この町の人間にしてみれば、蒼さんの『浮鴉』斬って、蒼さんを倒してしまって、褐さんともやりあって、『かなりのもんだよ』って褐さんが言ったらしいけど、実際に僕のあまりの弱さにびっくりしたみたいだね。
ちょっと悪い事したかな、って思ってる。
そんな僕の顔をマジマジと見て、焔丸くんが、
「本当に、剣を持った時ですら、今と変わりませんね兄上」
とか言われる。
すると、
「殺気だの、気力だのを外に向かって出してるなら、その人は大した事がないんですよ、焔丸くん」
って四胴さんが言う。
「じゃあ力量はどうやって測ればいいのさ? 『合わせ』をしても何もないんじゃ、もう戦うしかないよ、おかしな事を言わないでくれ」
って突き放すように焔丸くんは言うんだ、いや、ちょっと言い方冷たくないかな? 結構クールな子だよ焔丸くん。
それでも僕は、そんな事を言う四胴さんに、へー、って思って感心してると、
「お姉様がそうおっしゃいました、焔丸くんは視野が狭いのです、皆さんは私たちの知る強さとは違うのです」
葉山の事なのかな? 一体何を吹き込まれたんだ?
四胴さんて、本当にいい子だから何行っても信じちゃうよ、ダメだな、葉山、一回注意しておかないと。
「なんで、北海道から来た人の肩を持つの?、この町の人間なら町の人間を応援しないとダメだろ」
「ほら、そう言う考え方が視野を狭めています、私は、本当に強い人を見ました、きっとあのお姉様こそ最強なのだと思います。この方を最強だとおっしゃってましたが、それは自分を配下におく秋様を言っているからです、実利としての最強はお姉様です」
いや、ほんと、何をしたんだ葉山、って思った。葉山は僕の配下じゃないよ。って言おうとするけど、もう二人の言い合いが激しくて、間に入っていけない。
そこからは焔丸くんと四胴さんで、喧々囂々の言い合いに発展して、僕、ちょうどこの二人の間に入ってるからさ、なかなか居た堪れなくて、ちょっと考えてしまうんだよ。なにをって、葉山とかの強さの話し。
確かに強いけど、今の蒼さんとだったらどうだろうなあ、って。あいつ武器、特にバルカとか卑怯すぎる感じはあるけど、最接近されたら、武器にもよるけど蒼さんの方が純粋に強い気がする。でも一回アウトレンジにされるとちょっと蒼さん苦しいかもだよ。
「姉さんが最強だよ!」
「お姉様です!」
って言い合いながら歩く姿は普通に小学生に見えた。
「姉様は落下して首を跳ねるのが得意なんだ、ちゃんと骨のないところから螺旋に斬り裂ける技術を持ってるんだぞ」
いや、小学生にしては物騒な事言うなあ、って、まあこの町の方針みたいだから、黙って聞いてる僕だったよ。