その40【蒼、許される】
その後、屋代にいた微水様と僕らのところに蒼さんが合流して、一緒に話を聞いてた。
蒼さん、駆け付けたっていうか、いよいよ微水様の武器を授けてもらえる段取りがついたのだそうだ。
だから、きっと、僕たちはついでって感じで、蒼さんの武器の方が本命な感じだね。僕もそっちの方が嬉しいし。だって、そのためにこの町にきたんだからさ。
そして、僕らは微水様の話を聞いた。
それはとても興味深いものだったんだ。
だって、北海道ダンジョンから遠く離れたこの場所で、北海道ダンジョンの話を聞けたからさ。
初代微水様は言う。
「俺はな、そっちの『大穴』造った奴らと同じ存在なんだよ」
と言った。
ちょっと言ってることが理解できない。
「『大穴』とはダンジョンのことでしょうか、初代様」
と蒼さんが訪ねてくれる。
「そっか、そう言う言い方だな、そうそのダンジョンだ」
全くもっと意味がわからない僕で、それは葉山も一緒だった。
「でな、こいつらには俺たちの血が流れている、随分薄くなったけどな」
と初代様は言った。
「つまり、青鬼様は、ダンジョンにいるモンスターと同じと言うことですっか?」
いまだにその内容を理解できないと言った表情の葉山の頭をむんずと掴んで、
「ああ、こっちとは別だ」
と葉山の頭の上に乗せた大きな手、もう片方の手を葉山と同じ高さにして、その手のひらから、なんと葉山をもう一人作る。
「うわ!」
流石に驚く葉山だった。
「お前たちの言う、モンスターは『霞』でできてるヤツだな、俺は、そうだな、青色の吸血鬼とか、花嫁な悪魔とか、そっちの方だ、もちろん種類も原産はちがうけどな」
そう言ってから、初代様は社の天井を見つめて、
「あっちから来たんだよ、俺は……」
と言った。
そのあっちと言うのが今はよくわからないけど、つまりは、僕の知るところによると
リリスさんとか、キリカさんとか、フアナさんとかの仲間って認識でいいと思う。
でも、やってることがダンジョンと同じなら、それよりも上な存在だって思えるけどね。
「ねえ、真壁、やっぱり私って可愛いね」
と言った、初代様の言うところの『霞』で作られた自分自身を見て、葉山が言うんだけど、その霞葉山をいきなり切りつけて、砂塵の様に散らす刃を持った蒼さんが、
「なるほど、確かに同じ斬り味だな」
と呟くと、びっくりした葉山が、
「危ないでしょ! びっくりするでしょ! 痛いわね!」
と噛みついていた。
もちろん気にする蒼さんではない。
「こっちは意識はない、これを造れるものの意識によって動く、動作を前もって記憶させて、自律型にして置くのも有効だ、もちろん操縦者を指定したり、許可をすれば誰か他の物が作ってもいいし動かせる」
初代様のそんな説明をもらって、僕は、確かにと思うと同時に、あの深札幌での事を思い出していた。
確かにあの人達、霞でできてた人達は、どこか初対面と言うか知ってたけど初めて会話したみたいな印象があったからさ、でもなんとなくフレンドリーって言うか、だから、あの人たちもダンジョンの意識がいの第三者の可能性もあるんだね。
「じゃあ、つまり、僕らの知ってる北海道ダンジョンと、この多紫町は同じって事なの?」
初代様は、深く考えて、しばし黙考の時をへて、
「そうだな、出発は一緒だが、答えが違ってる見たいに見えて、同じ方向へ終わろうとしている、と言う感じだな」
つまり先っぽと尻尾が一緒みたいな考えでいいのだろうか?
「まあ、上の奴らとやり合う時は俺も混ぜろよ」
とか言われるけど、この時点では上の奴と言われても今の僕にはピンと来ない。春夏さんがいないから、その辺の記憶というか知識は不揃いで形にならないんだ。
ちょっとそのことについて考える僕を見て、沈んでいるみたいに見えたのか、
「悪りぃ、余計な事言った、忘れてくれ」
って初代様は言うんだけど、その事もまたはっきりしない思考に沈んで、曖昧な表情になる。
「お屋形様、少しお疲れではありませんか?」
と蒼さんが言ってくれるんだけど、
「大丈夫、はっきりしているし、もう少し話を聞きたいから」
と僕は強がった、やっぱろこの手の話を聞くと頭に制御がかかると言うか重くなる。
すると、初代様は、
「そう急くな、明日帰ってしまうわけじゃないんだろ? それにそっちの話はそっちでつけたほうがいい、俺なら逃げも隠れもできないからな、いつでも相手するぜ」
と言って来るから、そうだね、少し余裕もあるねって思える僕だった。
そして僕の方ではなくて、ここへ来た本題を蒼さんが告げる。
形は土下座って感じだけど、どこか上品な感じで、報告。
「初代微水様へ、申し上げます、未熟者な大槻の娘、蒼が、拝領した名刀『浮鴉』一対を失いました、いかなる罰も、責もこの身に受けます、さらに差し出がましい願いかもしれませんが、再び、この蒼に初代微水様の奇跡の賜物を拝領したく存じます」
と言った。
「良い」
と一言微水は言う。
「あれを斬られるとは思わんかった、斬られて尚、ここへ戻ってこれたことを嬉しく思う、お前は立派だ、蒼」
と初代微水様は言うんだ。
「顔を上げていいぞ、蒼、俺は怒ってなどいない、まして、罰を与えるなど、これは一つの予定調和だ、その線上にお前が乗れた事は良い事だ、嬉しい事だぞ蒼」
そして、
「それはもう、用意してある、後はお前に合わせた調整だけだ、数日で出来上がるから持って行くといい」
蒼さんの表情が、パアッとっ明るくなる。
よかったね、これで新しい武器が手に入れられる。僕も一緒に来た甲斐があったってもんだよ、よかったよ、本当によかった、僕が壊したから、責任は感じてたから、本当によかった。
そんないい雰囲気で微笑む微水様は、やっぱり美人だよなあ、大きいけど、綺麗な人じゃなくて鬼だと思った。
その微水様、僕の方をジロリと見て、
「使い方によっては、世界すら切り裂く剣だ、もう、それは俺の知る『刃』などではない、だから良い、よくやった、こうして力の極点もこちらに取り込んでいやがる、十分だ蒼」
と言った。
言われた僕はもう、そのアキシオンっていうの? 剣、葉山に取り上げられちゃったけどね。
そして葉山を見る。
「大丈夫、これで無益な争いは起きないから」
と言われる。
その時、聞いた事なの音が鳴り響いたんだ。
なんて言うかな、シンバルみたいな音、いや銅鑼かな? でも大きくないけど、確実に耳に届いて来る。
え? また何かの緊急事態???
すると蒼さんは、
「いえ、この音は、婦人会の集まりのようです」
と、蒼さんが冷静に言った。
なんだ、何かしらの騒ぎじゃないんだ。
って思ってたらさ、葉山のヤツ、
「ほらね、真壁が剣を持たなと、争いが起きないわ」
ってドヤ顔でいうんだよね。
いや、それ、今、関係ないじゃん。
僕が剣を持ってるの持ってないの関係ないじゃん。
とは言うものの、まあ確かに平和な時が流れてるねえ、とは思うからさ、その辺については納得するけど納得できない僕だったよ。