その39【やがて開放する剣の名はアキシオン】
僕の持つ、僕の剣を見つめて、微水様は、
「お前、今のままでも、この剣を仲介する事で、この世界の3割程度の物は支配できるぞ」
って、言い出すんだけど、世界の3割ってのがどの程度が、量的にピント来ないから、うまく理解もできないから、
「ふーん」
って言うしかなかった。
「しかも、お前は認められている……、いや違うな、この場合は懐かれてると言えばいいのか?」
そして、微水様は、僕と手にある剣を見つめる為にググッと顔を寄せて来て、
「お前、この剣に鞘を納めてないよな?」
っていわれて、まあ、それは事実だけど、そうだね。なんで知ってるの?って思うんだけど、
「今は納剣になってるんだな、刃がない」
と言うから、
「その辺は自在にやってくれてるみたい、打撃も散らせるから怪我もさせずに吹き飛ばせるよ」
と言ったら、
「お前、それ自体おかしい事だと思わないのか?」
と聞かれるので、
「別に……」
と答えておいた。
「つまり、お前の意向に前面に的に沿ってくれる訳だ」
感心してるのか呆れてるのか、今ひとつわからないけど、そのまま微水様は、
「お前、こいつの保管方法は? 家にいるときはどこに置いてる?」
前に、肌み離さずって言われたからなあ、
「今はどこにも一緒だよ、お風呂でついでに洗うこともあるし」
「寝るのも一緒か?」
「うん、一緒、これが無くなると、大変な事になるらしいから、片時もはなさないよ」
これをもたった経緯もありし、特に煩いのは塩谷さんはともかく、この剣をくれた冴木さんには迷惑かけたくないしね。それにこれが自然な感じがしてるんだ。
あれ? 僕も言ってて気がついたけど、なんでこの剣に関して、ここまで一緒にいるんだろう?って改めて考えてしまう。
ここまでの扱いをしてるのって、もう、気に入ってるって範疇超えて、愛剣家も通り過ぎて、剣フェチじゃん。変態さんじゃん。
「でも、今は離れて、そこの嬢ちゃんが持ってたんだよな?」
って葉山を指して言うから、
「うん、危ないからだって」
僕じゃなくて周りがって話だけどね。
「それは、その所持については、この剣は否定しなかったんだな?」
って言うから、
「どうなの?」
って葉山に尋ねると、
「別になんとも……」
って躊躇しつつも答えるから、多分そうじゃないんだろうとは思う。否定って、剣を持つ時の否定ってどう言う意味なんだろ? ちょっと想像ができない。
「他に扱える、人はどうだ? ひとまず持てるヤツでもいい」
「家の人はみんな持ってるけど、邪魔だから退かしたり、僕が置き忘れてる時に持ってきてくれたり、ねえ」
って蒼さんに尋ねると、頷いてくれた。そうなんだよね、特にトイレとかに置き忘れてしまった時には蒼さんがよく持ってきてくれる。
「そうか、お前が家族と認識している人間には無害なんだな」
って微水様が言うから、
「いや、そんなこともないよ、はい、焔丸くん」
と言って、剣を渡す。
「うわ! あ、はい、いや、ちょっと!」
慌ててる。大丈夫、噛みつきはしないよ、良い子だよ、この剣。
「次、四胴さんに渡してみて」
と焔丸くんから四胴さんの手に、
「なんともないです」
と四胴さんは、剣を握ったまま微水様を見上げて言った。
「まあ、そうだな、俺も持てたから、お前が許可する者も持てると言う訳だ、聞き分けのいい暗黒素粒子だな」
って感心している。そして四胴さんから剣が戻って来た。おかえり。
そして、微水様は、ポンと膝を叩いて、
「なるほど、納得いった、これなら俺の魂を封じた刀を切ってしまう訳だ、俺が刀鬼に戻っちまうのも納得だ」
といった。
「『アノマリー』なら俺の剣が形を維持できないのも致し方なしだ、これはこれで合点がいった」
アノマリーってなんだろう?
みんな納得してるからさ、焔丸くんも四胴さんも、だから僕だけわからないのもカッコ悪いし、なんとなくわかったような顔してる。
「わかってないよね?」
って葉山が突いて来る、いいんだよ、ここはこのまま流して、持ち主の僕がわからないなんてその場をしらけさせないで、いいから、余計な事はいいから、
「葉山、もっと話しを聞こう、今いいところだから」
って言うと、
「いや、もう終わりだ、蒼、調整するぞ、奥へ来い」
とか言い出す。
いや、ちょっと、微水様……。
困ったって顔してる、僕をみてニマニマしている葉山だよ。意地悪な顔してるよ。
そしたらさ、
「量子異常です、物質の定理が成り立たなくなる事です、つまり私が触れたところから素粒子へ崩壊して行きます、それは斬撃の効果と同じになります、ご理解いただけましたか、我が所有者様」
って教えてくれた。
わかりやすい説明だったね、助かるよ。
って、思って、僕は周りを見るんだ。
そこに僕に向いてる顔も意識もなんてなくて、みんなの興味はすっかり蒼さんの新しい剣の話題になってる。
あれ? 今、僕に親切に教えてくれたの誰?
聞いた事ない声。
でも親切に教えてくれた声。
きっと僕のことだろうと思うけど、オーナーって呼んでた。
誰?……。
恐る恐る剣を見るんだけど、まさかね?
そんな僕を見て蒼さんと去り際の微水様は言うんだよ。
「どうする? アキシオン様はついに承認欲求まで出して来たぜ」
「アキシオン??」
反芻してしまう僕に微水様は、
「ああ、そっか、言ってなかったな、その剣に擬態するモノを構成する暗黒素粒子だ、仮定の上では全ての物質の対になるべく存在、この宇宙の3割を構成する、結合と崩壊を繰り返す、どこにでもあって、どこにもないモノだぜ」
と言った。
そっか、君、アキシオンって言うんだ。そっか、そうだったんだ。
と、一応の納得で落とし所を見つける僕だったよ。