第86話【ああ、ファンって僕の…‥どういうこと???】
会員カードにはおそらく自筆で、春夏さんのフルネームとその頭に『会員番号001』って書いてある。
一応会員規約みたいな事が書いてあって、それを読もうとしたら、春夏さんに取り上げれれててしまった。
「これ、何?」
「まだ仮会員証、あ、でも本登録だから、会員証は100名を超えそうだから、業者に任せるって、冴木師範が」
いやいや、そんな事じゃないよ、僕が聞いているのは…。
「え? 会員番号001って?」
「いくら師範でもこれだけは譲れなかったの師範は002、003は桜田さんに、田丸さんが004なの」
なんか、聞いたことのない名前とか出てきた。師範と言うのは冴木さんの事らしい。田丸さんは、この前ギルドの本部で会ったお姉さんだね。
ある日、突然、自分にファンクラブができてしまったとしたら、僕はどう言う風に反応したらいいのだろう。自分の事で自分の周りに起こっている事に正直、気持ちがついてはいけない。
それに、会員証まで発行される意味がわからない。あの時のあのへんなスキルの暴発の罪っていうなら、それは対価としてどうなんだろう?
100円渡したおつりが1万円だったような気分かな?
「いや、ちょっと、悪い冗談ならやめてほしいんだけど」
控えめに言う、本音で言えば、絶対にやめてほしい。
「大丈夫、みんな純粋に秋くんを応援したいだけだから、信じてあげて」
なんか、春夏さんの顔はどこか誇らしげだ。
そうか、あの時写真を撮っていたのも、急いで帰って行ったのも、これの制作をするためだったんだ。冴木さんと春夏さんで変な結託している感じだし、それに会員が100名を超えるってどう言うこと? 僕何かした? 歌って踊れないよ。
確かに言ったさ、札雷館の方々には、「何時でもかかって来い!」って、でもさ、札雷館の一人である僕にとっては敵対心もなく、どちらかといえばむしろ好意的な冴木さん主体で、まさかファンクラブを作られるなんて、思いもしなかった僕だった。
特に冴木さんて、常識範囲内の人だって思ってたから、いくら僕の半端な『掌握』がさく裂したからといっても、この短期間で人まで集めて、春夏さんも巻き込んで、ちょっとアグレッシブ過ぎない? 行動力とは凄くない?
ちょっと侮っていたよ札雷館。
まだに、「予想だにしない」って事なら、僕の負けだ。凄いよ札雷館、予想以上だ、っていうか、この結果を誰が想像できるもんか。
何時どこに札雷館の刺客が現れるか、相当覚悟はしていた僕だったけど、それに加えて、何時どこで僕のファンだっていう人間が現れても、いいように覚悟しないといけなんだと思うと、心の準備というか、気持ちの持ち様が今ひとつわからない。
混乱する僕に、どうしてだろう、あの時の『クソ野郎さん』と、そのお姉さんの会話が蘇ってくる。『歪んで現れた効果』って言葉が妙に頭に浮かんだけど、それ以上は考えられなかった。
貰ったマテリアルブレードは軽くて使いやすいけど、フルプレートメイルよりも重くて堅い何か知らない物が肩にズシリと乗っかって、今後の動きにすら制限を受けそうな、そんな感じが否めない僕だった。
それでも納得いかないけどね、だから思わず訪ねてみた。
「ねえ、ファンって何のファンなの?」
出口のない圧力を逃すためにってわけでもないけど、行方不明になりそうな気持が、思わず僕は会員番号001号さんに訪ねてしまう。
だって、意味不明だもの。
「秋くんの」
って言ってからムフって微笑む春夏さん。
そんな変態さんみたいな笑顔までかわいいなあ春夏さんは。
なんか、今日のダンジョンって生暖かいなあ、って思うのはきっと僕の気のせいではないと思うんだ。