その37【剣を偽る未確定素粒子】
僕たちはまだ、多紫小学校にいた。
ちなみに同じ校内に中等部があるらしいけど、ここの子供たちって中学生になると町を出る子も多いから、そんなに生徒数はいないらしい。
さて、元気な小学生たちにめいいっぱいボコられた後は、あっと言う間に時間も過ぎて、なぜか僕らも学校で給食をゴチになって、葉山は九首先生に必死にこの地にとどまるつもりはないかとか、教員免許とりませんか? なんて話になってて、僕は僕で、焔丸くんや四胴さんか、その弱さをほとほと感心されて、その間、駆けつけてくれた蒼さんは僕のジャージとかをめくって、怪我の有無を調べてた。
大丈夫、怪我とかないから、多分真剣でも大丈夫だったと思うよ、ダンジョンの深階層に行ける人なら、この手の耐久はついてるから、鬼神化って言ったけ、一時的な肉体強化。僕もそうなってる筈だから。
お昼休みの学校の生徒達との交流は楽しくて、普通にこの町の子もゲームとか、アニメとかも見てるらしい。
僕はどっちもしないけど。でも、本当に普通の生活してるんだなあ、って思ってる最中に、中学生の子達の中には、僕らを囲んでるけど、テストが近いからと、教科書持ってきていて、こっちも同じかな? って軽い気持ちで覗いてみたんだけど、教科書が教科書で、戦闘書とか言うもので、どれどれ? って思って見たら、普通に相手の首筋を掻っ切るイラストが載ってて、まあ、ダンジョンでも実際に血も見る僕ではあるけど、正直、学校の授業で? って思ってドン引きしてしまったら、小学生中学年くらいの女子が、
「北海道の人が、夜間にこちらを発見していない敵斥候に出会ったらどのように対処しますか?」
って質問を受けるんだけど、「えーっと」って言葉しか出なくて、僕に質問をして来た女子の横の女子が、
「気取られう前に射殺でいいじゃん」
って言ったら、
「ぶー、違います、刺殺です、音立ててはダメです、後、マズルフラッシュで位置ばれちゃうじゃん」
「条件おかしくない? 発見したんでしょ、距離あるじゃん、どうやって近ずくの?」
「相手の動線を予想、先回りして、待ち伏せ、斥候だから、そんなに、難しくないよ」
「ああそうか、でもそれ、ブッシュが前提だよね?」
「そんな事ない、この前、訓練したよ」
「なんか、納得いかないなあ」
「じゃあ今夜試してみる?」
「うん、いいよ」
って、ニコニコしながらそんな内容を話している。
「試験前ですので、友達との会話も、こんな内容になります、懐かしいです」
と僕の前で、今僕の足の裏のチェックが終わった蒼さんが言った。微笑ましく言った。
「う、うん、ま、まあ、そうだね」
ごめん、一ミリも同意できなかったよ。
でも、ここってそう言う所なんだよね。うん、まあ、いいよ、慣れるようにするよ。そう言うものだって思うよ。
「じゃあ、お屋形様、明日のイノシシ狩りの実習は付き合ってもらおうかな」
とか九首先生が怪しげな事を言い出したので、逃げるように退散した。
ここのイノシシって、かなり凶暴で、大型なんだって。
ちなみに、小学生の低学年の実習授業で、指定された刃物で対抗してゆくらしくて、全員、一回は襲いかかって来るイノシシの背に乗るようにって言われるらしいんだ。
できない子は先生が乗せてくれるんだって。で、蒼さんの時はこの山の主クラスだったらしくて、それでも頑張って背に乗ったら、
「ほら、イノシシなんてどんなに大きくても、怖く無いでしょ? それにとっても美味しいのよ」
って言われたらしい。
そっか、僕の時はヒグマだったから背に乗るなんて考えてなかったなあ、あの人たち、逃げる時だけは四足で駆けてくから、チャンスかあったのかもって今更考える僕だったよ。
それでも僕のやっていた事って一般的では無いからさ、世間一般的に考えるなら、この町の独特の教育方針に驚かされるばかりだよ。
「この町もそうだけど、真壁も常識外の更に外にいるからね、でも初代様の所に行くまでは剣を渡さないから」
って葉山に言われる。
いやあ、なんか落ち着かないかそろそろ返してくれないかなあ、とは思うんだけど、それにこの剣て僕以外の所有をとか嫌がるんだけど、不思議と、葉山とか蒼さんとか、あと母さんとか、薫子さんもだね、特に春夏さんとかは特段嫌がる様子を見せないんだよなあ。
「あ、着きました! ああ!ダメです初代様!」
と四胴さんが駆け寄ってく。
そうなんだ、四胴さんと焔丸くんは付いて来てくれたんだよ、午後の授業は公務だから公休でいういんだって、この辺はダンジョンのある札幌の学校みたいだよね。
そして、僕らは神社に着いた。
「早かったな」
って微水様、もう鳥居の所に待っていて、
その姿を見て、四胴さんが、
「微水様、衛星に確認されてしまいます、出られてはダメです」
とか怒られてる。
「お、そうだな、すまん」
と言って、再び社の中に入って行くので僕らもそれに着いって行った。
思わず空見て、そうなの? とか思っちゃったよ。本当にこの町は徹底的に初代微水様を隠すつもりでいるみたい。
一応は、微水様って鬼なんで、特に秘密の中の秘密に位置してるんだけど、それを容認していない勢力もいるって話らしいんだ。
つまりね、こうしてこの町の人間が高い身体能力は徹底的に教育された知識と知恵で、この国の国防の主幹にいるのって、特に人外って言われる力が作用してるって言うのが我慢できない人もいるらしい。
つまらないことにこだわるなあ、って思うけど、そう言う人もいるって理解した方がいいらしい。まあ、僕の直接関わって来るわけじゃ無いけど、なんとなく仲のいい友達がちょっかい出されてるみたいで面白くは無いよね。
今はそれはいいけど、どこかでいつか改善できるといいなあ、って思ってる。
で、社に入った微水様、葉山から直接、僕の剣を渡されて、それをじっと見て押し黙ってる。
何かあったのか?
で、ようやく口を開いたのが、
「なあ、お前、これ何処で手に入れたんだ?」
とか言われて、
「人に貰った」
細かく言うと違うかもだけど、結果そうなったからこんな説明でいいか、って思ってる。
そして微水様は、いつになく真剣な眼差しで、僕の剣を見つめて、
「これ、剣じゃねーぞ……、いや、たぶん、物質ですらない」
と言った。
いやいや、何言ってんの? 剣じゃん。まごう事なき剣だよ。
言い返そうとする僕を見つめる微水様のあまりに真剣な表情に、何も言い出せなくなる僕だったよ。