その34【大紫町小中学校】
ちょっとびっくりした。
この町の子供、みんなスキル持ちだった。
特に魔法スキルは、みんな火と氷の基本から2段階くらいは使えるみたい。
「凄いね」
って葉山も流石に舌を巻いている。
そんな中、この大勢の生徒の一番の関心は、北海道ダンジョンウォーカーの戦力の体験、つまりは、葉山と直接やりたいって言う子供たちが大半だった。
そして、教室はそんな積極的な子供達を褒めたりするけど止めたりはしない。
「お屋形様は調子悪いみたいですから、葉山様に一つご教授お願いできませんかね?」
と先生までそんな事を言って来る始末。
そして以外にも、ここで一番、実戦に長けてるのは四胴さんらしい。
他の中学生、僕らと同じ歳くらいの子でもいいんだけど、この四胴さん、もう蒼さんの再来なんて言われるくらいの技能を持ってるらしいんだ。
もちろん、実戦経験はないから、その辺を教えて欲しいんだって。
「いいですか? お姉様」
って、お姉様? 言われてる葉山はちょっと複雑そうに微笑んでる、なんかあったのかな? ちょっと気になるけど、まあ、いいや。
「いい? 真壁?」
って葉山まで僕に尋ねて来るから、
「別いにいいんじゃない? あ、でも怪我とダメだよ」
と念を押しておいた、一応、自分の剣、マテリアルブレードの双剣を持ってきてるみたいだけど、葉山は一本木刀を生徒から借りて、
「いいわよ、空ちゃん、おいで」
と言うと、「はい!」といい返事をして挑んで行く。
いいね、遠慮しないんだね、尻込みもしてない、普通に自然に戦いに挑んで行く。
恐れも、怯えも、侮りもしないで、いい形で戦いに挑んで行く。
これだけでも、ここにいる小学生の技能とかわかるよ。
そんな様子を見ている僕に、
「いかがですかお屋形様も……」
と教師なのかな? 若い女の先生に声をかけられた。
「いや、僕はいいよ、きっと参考にならないだろうし」
って思うのは、葉山がさ、空さんの上段を上手く往なして、背中の方に回り込んだりしながら、なんか色々指導してるんだよ、さすがだよね、ああ言う所を見ると、やっぱ委員長だよなあ、って思うし、僕には無理だって考えちゃう。
だから本気で断ってる。
そしたら、
「そうですね、お屋形様は、剣を装備しないとからっきしだと言うことは聞いていますから」
知ってるなら勧めないでよ、目上の人ってか先生って立場の人に『お屋形様』って言われるのって、なんか抵抗がある。
それにこの人、僕を知ってるみたいな話し方をする。
誰だろう?
って思って顔をジッと見てもわからないや。
「この学校で教師をしている、九首莇と申します」
ん? どっかで聞いたことがある様な無いようなだぞ?
「ほら、思い出しませんか?」
ジッと自分の顔を見せて、言われるけど、誰だっけ?
すると、空さんと戦ってる葉山が、
「ほら、九首って、いたるところに出てきたんじゃなかった? 最後は世界蛇かな? クロスクロスにもいたし、秋の木葉の前身母体、黒の猟団にいた人」
うーん? いた?
ってもう一回見るんだけど、ダメだね顔に見覚えがないもの。
さらに追加して、葉山は情報をくれる。
「ほら、出会う度に倒してたでしょ?」
ああ、なら余計覚えてないよ、つまりは抵抗にもなってないから、通りすぎの人くらいの印象しかない人のことなんて一々覚えてないもの。
僕にとっては瞬間に忘れて問題の無い今後も関わり合いもなくて、あったとしても初対面で接しても問題はないくらいの人にカゴテライズされてる。つまりもう、記憶の片鱗も無い。
だから、
「ごめんなさい」
と、その九首という女教師の人に謝っておいた。
すると、
「ああ、もう、仕方ないなあ、全く歯が立たなかったのね、うちのダメ弟は」
とガッカリして様に言った。
「いいの、結構甘やかされていたから、このまま、要職についても使い物になってなかったでしょう、そういう意味では助かったわ」
って変なお礼の仕方された。
なんか、僕、過去に九首先生の弟さん倒してしまっていたみたいだから、
「ごめんなさい」
って言っておいた。
「今、あの子ね、お屋形様に三度、ケッチョンケッチョンにされた後、お寺に入れらたのよ、そこで寝食共なった修行をしてるの」
ああ、そうなんですか、意外な人の行く末が知れてよかったのか悪かったのか、まあ、九首先生の弟が思い出せないんだけどね。
そんな会話をしていると、このどは焔丸くんが葉山と戦ってた。
とてもいい動き。
流石、蒼さんの弟だね。
「ここの子供達は強いでしょ?」
って九首先生は聞いてきたから、焔丸くんの動きも感心してたから、
「やっぱり蒼さんも強かったんですか?」
って聞いたら、
「あの子たち、蒼様と、一心家の浅葱ちゃん、そして二肩家の千草ちゃん、あの辺は飛び抜けてたわ、今後、世代を重ねても当分は出てこないでしょうね」
ってどこか先生、遠い目をしていうんだ。
そして、
「特に蒼様はずば抜けていたわね」
って言った。
「あれ? でも、蒼さん、一心さんとか二肩さんに負けたって聞いたことあるわよ」
と焔丸くんを相手にしながら葉山が入ってきた。器用だな葉山、ちゃんと相手してやれよ、片手間みたいに相手されて焔丸くんちょっと傷ついてるぞ。って余計な心配をしていると、先生は、さらに遠い目をして、
「蒼様はね、本気で戦えないのよ、誰も蒼様の本気を受け止められない、もし蒼様が本気を出したら、きっとみんな殺されてしまうわ」
と言った。
確かに、彼女の強さって、ちょっと異様って言うか、そう言うところはある。特に殺戮系の強さってのかな、そう言ったものが彼女の奥底には眠っていると思う。
それを解き放ったら、きっと蛮性が開花してしまうってそう考えてるのかも知れない。
だってさ、戦うのは楽しいんだよ。己の強さが顕著になると、もう勝つことが楽しくて楽しくて、どんな手を使っても勝って、相手もねじ伏せて、自分の強さを証明しようと必死に戦う。勝利に対しての中毒みたいになる。だから負けるのが死みたいに怖くなる。
楽しいけど、そっちの方向に僕はいない。母さんがいたからね。そっちには行かなかった。
そっか、ちょっと理解できた。
まだ、蒼さんはその辺にいるんだね。
でも、蒼さんは優しいから、きっと自分の心をザクザク刻んてしまったんだね。
北海道ダンジョンで、そこを抜け出そうって必死だったんだ。
なら、迷うし、手も出なくなるし、自分より技量の低い相手に負ける訳だよ。
いつも一緒にいるけど、僕はちょっと蒼さんの本当を、彼女が何を思い、何をしたがっているのか、そのカケラみたいな一部を知ることができた気がしたんだ。
北海道ダンジョンで出会った時の、彼女の凝固してしまった意識みたいなもの。
そっか、その為に僕はここに来たのかも知れないなあ、なんて勝手に悟ってしまう。
そんな風に納得する僕に、
「やっぱり弟は思い出せませんか?」
って九首先生に聞かれて、冷たい様だけど嘘つくわけにもいかないんで、
「うん」
って答える僕だったよ。