その33【小学生と言う名の嵐】
何がどうして、こうなったかわからないけど、薫子さん剣を製作してもらう為にこのコンビニの店番をしていたみたい。
今はこの町には19代目の微水様がいて、その人に造ってもらうのだそう。こっちの微水様は人なんだって。二代目から人なのだそうだ。
で、微水さんの刀とか武器って、結構な値段するらしいから、コンビニのバイトって、時給でいうなら、1000円くらいなのかな? よく知らないけど、そんなことで、剣を作ってもらえるなんて、超ラッキーじゃん、って思うんだけど、薫子さんにしてみれば今のこの現状ってのも割と彼女にとってみれば拷問に近いらしい。
この人、以外にコミ症なんだよなあ、知り合いには強いけど初対面とか超苦手な人なんだ。
確かに薫子さんって接客向きな性格じゃないもんね。
基本、いつでも上から目線だし、必要以上に人と接しようとしないし、対人関係は概ね不器用だし、ギルドの明日を背負って立つ逸材とは言われてるけど、周りに人がいないと何もできないっていう感じもあるし、事実を知ると不安な感じだよね、家でもしょっちゅう葉山と母さんに怒られてるって所もある。トイレの鍵とかもかけないしね。この前もノーブラを葉山に怒られてなあ。男の子がいるんだから気を使いなさい、ってガチに葉山の怒られてた。その後、僕に謝りに来たんだけど、内容が内容なだけにどう対応していいかわからないから、「うん」としか言えない。
そんな薫子さんを知る僕としては、神の啓示というか、薫子さんが人としての試練かもしれないよね。
薫子さんて、こういうところは凄いんだよ、苦手を苦手のままにしとききたくないっていうか、いつも苦手を真っ直ぐに努力する。素直だしね。ちょっと性格が曲がってめんどくさいところはあるけど、なんでも一生懸命にやる人だよ。
だから、自覚もあるみたいで、薫子さん、19代目の微水様、ありがたい申し出を受けてコンビニバイト頑張るんだって言ってた。偉いよね。
かなり不得手なお客さんの対応も一生懸命やってるし、この町の住人であるお客さんも最初は知らない薫子さん見てビックリはしてたけど、みんなそれなりの対応してくれてて、住民の優しい対応に、なんとかできてる感じで良かったよ。
白馬さんは、いつの間にかいなくなってて、じゃあ僕も、ジュースおごってもら、面白いものも見れたし、帰ろうかなって思ってると、帰り際に薫子さんに、
「くれぐれも、この事は内緒にしておいてくれと」
と、何度も念を押されるので、「わかったよ」って返事して、飲み切った空き缶渡してコンビニを後にした。
お店を出ると外は丁度登校時間帯で、道路は小学生女子でごった返していた。
結構な数の学生がいるんだな、って感心しいてる僕なんだけど、それ以上に僕の方が関心を持たれてた。なんか視線が痛い。
ほとんど珍獣を見ている目つきで、だからパンダの気持ちがちょっとわかる。
まあ、こう言う町だから、きっと僕みたいな外から来たにんげんが珍しく思われているのは容易に想像出来る。
そんな中。軽トラックとかが結構なスピードで学校に通う生徒の脇を通り過ぎて行く。
あれ?あの車さっきも通り過ぎたぞ? 似た車かな?
よくわからないけど。
コンビニを出た僕に、みんなすれ違いざまに元気よく挨拶してくれるから、こっちも返事しっぱなあしになる。特に小学生の子は、
「北海道って所から来たんですか?」
とか、
「蒼様の旦那様ですか?」
とか、
「ヒグマって美味しいんですか?」
そして今一番ホットなニュースの、
「昨日の三爪の旦那様をハエみたいに叩き落とした人って旦那様のお姉さまですか?」
とか質問責めにあう。
助かるのは、上級生がちゃんと注意して、登校を急かしてくれるから、こっちも一々答えなくてすむ。
で、僕としては帰ろうとするんだけど、このまま登校する生徒の波に飲み込まれて行ってしまう、僕は反対方向に行きたいのに、いつの間にか集団登校の子供達に囲まれて、そのまま流れで連れていかれそうになってる、と言うかもう、離脱できない。
中にはすごい接近してマジマジと見てっ来る中学生くらいだから僕と同じくらいの女子もいる。ちょっと距離が近いかな。
意外な事象に巻き込まれて、困ってる僕なんだけど、ここでようやく知り合いに出会う。
「兄上!」
ああ良かった焔丸くんだった。
その横には四胴さんもいて、
「みんな離れて! 真壁様へご迷惑をかけないで」
って注意を促してくれた。しっかりしてるな、って思ったよ。
ああ、良かった助かったよ。とホッとするのも束の間、
「兄上、なぜこのようなところに?」
と尋ねるから、訳を話そうと思うんだけど、その前に、
「あ、そうですか、いずれ、この町の多月の家を姉様と支える為に、この町の施設を見学に行くのですね?」
とか超展開で早とちりで言われてしまう。それにいつの間にか、兄上の『義』の文字が消えてる気がする。気のせいだよね。
ともかく、ここを離れようとは思うものの、ほとんど、集団の真ん中にいて、左右を焔丸くんと四胴さんに挟まれて、そのまま学校に連れてかれてしまう。
まあ、いいけど、暇だから。
で、学校に着くと、校舎の前、校庭にみんな生徒が集まっていた。
こうして見るとこの生徒の数が全部だとしても結構な数、3クラス分くらいはあるかなあ、普通の札幌の小学校よりも多いくらいの人の数。中小一貫校だから、そりゃあそううだよね。
特にきちんと並んでなくて、団子というかドーナツのように、先生だろうか、誰かを中心にみんな集まってた。
そして中の人に軽く声をかけられる。
「あれ? 真壁?」
葉山だった。
なんでも、蒼さんのおばあさん、褐さんに言われて、実技講習に駆り出されたらしい。
よく見ると、一心さんと辰野さんもいる。
北海道ダンジョンの事、つまりはダンジョンウォーカーについての講習会だそうだ。
なるほどね、確かに葉山ならうってつけだよね。日常生活でも委員長だし。
感心して見てる僕に、葉山は、
「薫子は一緒じゃないの? 今日花さんに聞いたら、早朝に出て行ったらしいけど」
「いいや、薫子さんなら、コンビニで店員やってるよ」
と教えておいた。
「え? 真面目に? あの子が? 接客とかしてるの? うそ!」
って楽しそうに葉山が言うんだけど、いいんだよね、『剣を造ってもらう』って言う事黙ってるから、こっちは言ってしまっていいんだよね?
って、誰にも問うこともできない僕は、何か、約束破ったみたいな気持ちになってしまうから、いや、これは言っていいんだよって思うことにした。
「じゃあ、帰りに寄ろう、薫子の店員姿、写真撮る」
って嬉々として言うから、なんかしでかした感が大きくて、ちょっとごめんね、って呟着たくなる僕だったよ。