その32【国防意識やら薫子さんやら】
昨日も、ともかく何もかも美味しくて、凄い夕ご飯だった。
何より驚いたのは、この多紫町で『ゴブリン鍋』をたべれた事だ。
ちょっと家の味とは違ってたけど、それでも美味しかった。ああ言う風に山菜を沢山入れるのもアリだなあ、なんて考えながら、僕はその辺をテクテクと歩いてた。
なんでも近くにコンビニがあるって話だから、ちょっと飲み物でもって感じに、軽い目的と思いつきで向かっていたんだ。
それにしても、昨日から1日ぶりに蒼さんが僕の布団に潜り込んで来ていたけど、びっくりしたのは蒼さんのお母さんまで一緒に寝ていた事。
僕じゃなくてお母さんは、母さんの布団に入ってた。
わかりにくいね、つまり僕の母さんの布団の中で、いつもの蒼さんみたいに蒼さんのお母さんが、スヤスヤと寝息を立てていた。
僕と一緒に目を覚ませたかあさんは、
「そのまま寝かせておいてあげましょう」
と言って、朝食の配膳のお手伝いに行って、朝ごはんも終わって、今、こうして歩いてるわけだ。
今日の午後からは、初代微水様に僕の剣を見せに行こうとは思っていたので、朝は暇だなあ、って、歩いている。
いや、本当にこの町、面白いんだよ。
と、言うか、僕はあまり北海道を出る事がないから、こうして住宅街や、道路、その他の環境を見て歩くのはかなり刺激的なんだ。
道路の幅も狭し、家の横には側溝とかあるしね、生活排水ではなくて雨水を流してるって言ってたけど、山側からの雨水も含まれてるから結構流れが早くて、しかも割と大きな魚が泳いでる。瓦屋根もあまり見ないし、物珍しさ全開で歩いていると、
「なんだ、真壁も散歩か?」
と言って来るのは、昨日の騒ぎの家にお世話になってる白馬さんだった。
「白馬さんも?」
「ああ、そうだな、昨日の騒ぎで、今、三爪の家は大変みたいだな、みんな付きっ切りだよ」
そうか、そんな家にいても気を使うから出てきたんだな。
「珍しいか?」
と僕の視線を追って、何を見ているのかすっかり理解してる白馬さんはそんなことを言う。
「それはね、北海道の町とは違うから面白くで」
と言うと、
「雪の積もらない地方ならみんなこんな感じだぞ、それでもここは標高の所為で低温にはなるみたいだが」
と言った。
「詳しいんだね」
「親が建築屋だからな」
それは意外だった、だって白馬さんて、見た目に練度とかありそうな雰囲気で、てっきり親子数代に渡る軍人の家系かと勝手に思ってた。
それに高校生から自衛隊になる人って結構なエリートって聞いた事があるから、てっきりそっちかた思ってたよ。
「以外か?」
と言われて、
「うん」
って正直に答えた。
「まあ、自分でも向いているとは思うよ」
と言うから、そこそこ今の職業に対しての自信はあるんだなって感じた。
「真壁、こっちから聞いてもいいか?」
何を改めってと思うから、
「いいけど、答えられる内容かな?」
そしたら、白馬さん、本当に改まって、
「ああ、お前自身の事を聞きたい」
と言ってきた。そして、
「お前は強いな」
と言うから、
「いやあ、そうでもないよ、今なんて、この町最弱に認定されてるし」
そしたらさ、白馬さん本当に心の底から笑って、
「ああ、そうだったな、三爪も心配してたぞ」
と言って、
「やはり、プライドが傷つくのか?」
とか言うから、
「別に……」
と答えておいた。いや、ほんとに気にならないから、そこは本心だよ。
「そうか」
と言ってから、
「もう一ついいか?」
僕は無言で頷く。いいよ暇してるし。
「真壁、この国をどう思う?」
いきなり話がでかくなった、今さっき僕の事を聞いてたのに、次は国って、真ん中が無いよ、デジタルな人なのかな?
「いや、どうって……?」
そんなの考えたこともなかったからさ、ちょっとスケールが大きくて対応できない。
「ああ、言い方が悪かったな、つまり安全保障とかの面だ」
ごめん、もっと潜って行った感じだ。
本当にわからない。
そしたらさ、白馬さん、
「この国は、この国の力で安全を守って行った方が良いと思うんだ、つまり、いつまでも国と骨幹たる軍備をよその国を頼っていてはいかんと思うんだ」
ああ、そういう話か……、うんわかんない。だらか答えようも無い。
呆然としてる僕に、白馬さんは、
「そうか、真壁もそうなんだな」
とか勝手に納得してるけど、僕にそんな事は答えられないけど、ダンジョンい置き換えて見ると、確かに自分の身は自分で守るってのは賛成で、誰かを頼りにするのはダメだよねとは思うから、だって、そう言うダンジョンウォーカーは沢山いるんだよ、僕には近づいて来ないけど、すぐに強力なパーティーに潜り込もうとする輩は沢山いるって葉山から聞いてる。
そんな感想を言おうと準備するんだけど、
「有意義な話ができた、感謝する」
って完結しちゃった。
そして、白馬さん、
「流石に話すぎたな、喉が渇いた」
え? もう? そんなに長く話した印象が無い。
「近くにコンビニがあるそうだ、礼に冷たい物でも奢ろう」
って言うんだけど、え? コンビニこの近くのなのってテンションになるけど、白馬さんの会話の限界の早さに、ちょっと他の隊員へ心配になってしまう僕だった。
で、コンビニは白馬さんが知ってて、そのまま付いて行くんだけど、あまり見た事ないコンビニのマークで……、うーん、でもどっかで見た事あるなあ、きっと僕、このお店北海道のどこかで見てるぞ。
って思いつつ、そのまま自動ドアを抜けて、店内に入った。
「い、いらっしゃいませ」
と、店員さんのなんかひどく緊張した声。
多分、この店の制服なんだろうけど、お辞儀してあげる顔がさ、なんか、どっかで見た事ある顔なんだよなあ……。
いや、僕、この町の住人に馴染のある人はいないけど、いや、そんな筈は……。
思わず凝視してしまう僕の視線に、その店員さんは、近くにあった、買い物カゴで、顔を隠すように、頭から被る。
そして、
「賢王だよな? 何してる、こんな所で」
と白馬さんが言うから、やっぱりそうか、そうだよね、って思って、
「薫子さん?!」
「ち、違う、人違いだ、私は薫子ではない、ああ、ダメだ……、違うんだ、そうではないんだ、これには深い訳があってだな……、そんな目で見ないでくれ」
とか支離滅裂で言うけど、まあ、僕たち飲み物買いに来ただけだし、何か見られてまずいなら、と思って、ドリンクコーナーに行って、あ、オリジナルのエナジードリンクある、なんかこう言うのって不思議なテンションになるよね。全く見た事も無い
僕はレジに置いて、白馬さんは普通にコーヒー買ってた。
で、会計してそのまま出ようとするんだけど、
「訳くらい聞いてくれ!」
って薫子さんがキレてるから、見ないふりしてあげてるのになあ、一応気を使ってるんだからさ、こう言う所がちょっとめんどくさい人なんだよね。
そんな所が薫子さんらしいと言えばそうだんだけどね、まあ午前は暇だし、と思って、薫子さんを前にして、奢ってもらったエナジードリンクの栓を開ける僕だったよ。