第85話【真壁秋ファンクラブ会員カード???】
そんな事まで考える僕は、いまちょっといい気になってるな、クールダウンしよう。
ふう。
ちょっとおちついた。
周りを見渡すと、床には敷いたみたいに倒れた紙ゴーレムの姿。
完全にリサイクルされるまで復活はないだろうって、思った。そのうち、古紙回収にくるのかな? って疑問も残るけど……。
春夏さんも無事で、僕見てニコニコしてる。
こんなに早い段階、だから浅い階で、僕が春夏さんを助けるなんて、今まで考えもしなかったよ。
本当にすごいな、僕じゃなくて、このロングソード。割と落ち着いたすっきりした頭で僕はそう思った。
「ありがとう、秋くん」
春夏さんが、お礼を言ってくれた。なんかとても感動している感じ。ウンウン、そうだよね、僕が1番信じられないよ。
多分だけど、いつか剣を持ったにしても、自分の実力を発揮できるようになるまで、まだまだ時間がかかるって思ってたもの。
まるでこのマテリアルブレードって言ったっけ、この現代剣によって自分の能力が底上げではなくて、見事にダンジョンへ適合、調律された気分だよ。
ふと視界の端に移る春夏さんを見て、昔は春夏姉に勝つことばかり考えてたから、なんか新鮮な感じだよ。
って、一瞬、閃いたようなかつての思い出はまた消えてしまった。今、僕は今の考えはなかったことになる。
普通は自分の頭の中でこんな事起こったら不気味っていうか自分の健康状態を疑うものだけど、僕の場合は気にしないんだよね。そういう約束だから。
「もう、こうなったら、一気に中層階まで行きますか? 秋さん」
と角田さんが言って来る。
「それは嫌だな、やっぱりきちんと順を追ってダンジョンを楽しまないと」
って言ったら、いかにも僕が言いそうで、さも当たり前な答えが返ってきた様で、角田さんは、
「そうですか」
とだけ言った。
確かに、このレベルでは敵はいないかもしれないけどさ、北海道ダンジョンをちゃんと知りたいからね。どんな構造になっているのか、どんな敵がいるのか、折角だからきちんと順を追って出会いたいもんだよ。
って思っていたら、さっき、春夏さんが落とした、カード的な何かが自分の直ぐ足元に落ちている事に気が付いた。
春夏さんは、僕に助けられたって事実がよほど貴重にして、そして嬉しかったみたいで、「すごい」とか「強い」とか「秋くんかっこいい」とか、概ねこの三種類の言葉を繰り返していて、全く気が付かないので、ここは気を聞かさせて僕が拾おうと手にとってみた。
「あれ?」
思わず声に出してしまった。
だって、そのカード的な物、写真だったから、正確にはカードで写真だった。
で、写っているのが僕だった。さっき、って言うか朝、冴木さんに撮られた1枚だと思う。なんかドヤ顔でこのマテリアルブレードを振り上げている姿だもん。これ、「強敵を倒した雰囲気で」って言われた時の写真だ。
でもって、カードだからさ、思わず裏返して見て見たんだよね。直感的に思ったんだ、こっちが裏だって、本当に何となく。
「あ、ダメ」
春夏さんが言うけど、表に返して見て、さらに驚く。人間て、本当に予想だにしないことが起こると、感情って身をひそめるよね。今、僕自分がどんな顔をしているのか全く想像がつかない。
表には、『真壁 秋ファンクラブ(仮)』って書いてあった。