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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その25【百目家、大いに揺れる】

 その日、この百目家でも、氷のような緊張と炎のような切迫した稀有な時間を迎えようとしていた。


 百目家の屋敷、普段はあまり使う事のない大広間。


 その男はイライラしていた。


 それでもどうにか落ち着こうともしていた。


 だが、しかし、これはどうにもならない、かつてない、おかしな感情に支配されているに事に気がつく。


 もしかしたら、このれ以前仕事で某国に潜入した際以上のプレッシャーかもしれない。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……。


 お前、フザケンナよ!


 でもなあ……。


 娘が一生懸命連れて来た男だもんなあ。


 おいおい、男って、男かよ、男は狼なのよ、ああああああああああああああああああ!!!


 チキショウ! 我が愛しい、それは愛おしい娘に触れやがって!


 どこまで進んでるんだ?


 いやいやまだ中学生だろ?


 北海道ってアメリカナイズされているって……


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 重く暑く、まるで煮えたぎる溶岩の様に思考は錯綜する。


 気を抜いてしまうとちょっと病んだ思考に陥ってしまう。


 「ええい!」


 男は発気する。


 全てを打ち払う様に、何もかも砕き飛ばしかの様に。


 違う、これはめでたい事なんだ、いい事だ、喜び申し上げる事なのだと、そう自分に言い聞かすも、またいらつきが始まる。


 そして、言われる。


 「あなた、落ち着いてください」


 「ああ、ああ、あああああああああああ」


 と返事も取り乱すくらい落ち着けない百目紺の父親、統治である。


 これでも職業は、防衛庁のかなりのお偉いさんである。背広組であので自衛官ではなく階級は無いが、事務次官クラスではある。


 なので職場に行けば、それなりの数の部下を持って、自分の管轄する部署をブンブン回している強肩なる人物ではあるが、今は、たった一人の、しかも自分の娘と、そしてその娘が連れてきた男子に対して、世界の終わりに直面したくらいの勢いで取り乱している真っ最中である。


 ちなみに本日から有給を取って里帰りしている。


 もう現在の統治にとってみれば、国防の事を考えている場合では無いのだ。


 だって、娘が彼氏を連れて帰って来てるから。


 一防衛庁職員の立場など、電磁カタパルトで射出して帰って来た娘思いの父親なのだ。


 ああ、そっかお嫁に行っちゃうのかあ、と、帰りの車の中で嬉しいのか悲しいのか、いきなり自分の娘を奪って行く見たことのない男の登場に、動悸がしたり、訳も無く泣いてしまったり、と情緒不安定な統治であった。


 それに比べて、百目の母、百目 蛍はいつも通り、落ち着いている。


 それでも緊張の所為なのか喉の渇きを感じて、手に持っていた器を口に当てて煽る。


 「母さん、それは醤油差しだ」


 と統治の注意を受けて、


 「あ! ああ』


 と驚き、飲み干すのを中止する。そして一瞬、なぜここに醤油差しが、と言う根本的な疑問が浮かぶのではあるが、今はそれどころでは無いことに気がつく。


 蛍もまた落ち着いているようで、かなり深いところからパニクっていた。


 だめ、母親がこんなんじゃダメ、落ち着くのよ、落ち着くの。


 そして、ともかく、娘が必死に連れて帰って来た男の子だ。


 なんとか仲を取り持ってやりたい、と母心全開で、婦人会から渡されて、小冊子『もしも、娘が友達以上恋人未満の関係のモノを連れて帰って来た場合の対応100選』の所を開いたページを凝視している蛍である。


 「あなた、一旦落ち着きましょう」


 「わ、私はさっきから落ち着いてる」


 と言う統治は部屋の中をうろつくも、その足が足がガクガクしている。


 「くそう! この足め!」


 と自分の足を激しく叩くも、一向に効果は現れない。


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