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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その24【母と娘による相互不理解】

 蒼は冷静になったと思われる母に向かって、


 「いいですか、母様、私とお館様はその様な関係ではありません」


 としっかりときっかりと言う。


 しかし母は、


 「そうね、わかるわ、確かにあの子、秋ちゃんだったかしら? 若い頃の清十郎様に似ているかもしれないわね」


 と言う。


 しかし、今度は蒼が激昂する、普通にキレる。


 「何を言っているんですか! お館様が、あんな無駄肉な駄筋肉ダルマ、毛むくじゃらな訳ないです、違います、父様になんて似てません」


 すると菖蒲は、


 「その言い方は酷いわ、まるで清十郎様がカッコよくない、みたいな言い方しないで」


 「あんなのかっこいいって思ってるの母様だけですよ」


 目玉腐ってるんじゃ無いんですか? と言いかけるも、さすがにそれは、自分の両親に対してあまりに無礼なので抑える蒼である。


 この母は、菖蒲は昔からそうなのだ。


 ちょっとカッコいい人をみると、直ぐに自分の夫である清十郎に変換してしまうのである。


 おかげで、どんなカッコいいタレントや俳優を、それをTVや雑誌、時には映画をDVDで見ても、すぐに自分の旦那である『清十郎様みたいでカッコいい』と言うのである。


 おかげで、幼少の頃から見た、ドラマや映画の主役クラスが、自分の父、無駄に使えない筋肉と髭面のもじゃもじゃに置き換えられたか事か、ようやくそんな呪いの様な暗示も解けて来た今日この頃なのに、今度はよりによって大切なお館様を父と重ねられて、相当にどタマに来ている蒼であった。


 しかし、母の攻勢はなかなか止む事も無い、引き続き次の攻撃が入った。


 その一言は、


 「やっぱり、母娘って好きな男性の好みって似るのね」


 「はあ?!」


 ついに母に対して殺意以上の敵意をダダ漏れにして、決して真壁秋の前では言うことのない、極めて、自分の事を全く理解しようとしない母に反抗する女子高生みたいな言葉を短めに吐いてしまう。


 さすがにこれには、


 「こら、蒼、実の母親に向かってそんな殺気をぶつけないで」


 と言われて、ハッとして正気に戻る蒼であった。本当に一瞬、『このババア、ぶっ殺すぞ』くらいはマイルドに思った蒼でもある。


 ちなみに横で、ごぼうの笹切りを始めた蒼の祖母であり、菖蒲の母である褐は大笑している。


 そして母は言った。


 「それに、男の子は『弱い』くらいが可愛いわよね」


 と、そっと頬を染めて言った。


 その顔は、ようやく娘とこんな話までできる様になった、そんな娘の成長を喜ぶ母親の笑顔である。ちなみに娘はその横で呆れている。


 それ以前の前提問題として、この町始まって以来の美貌と優秀さを兼ね備えた母は自分お夫の清十郎の事を今だに変わることのない愛を持って、大好きなのである。


 もちろん、こんな女性な部分は決して息子の焔丸に見せることはない、あくまで同性の蒼にだけ、この様な態度と発言をしているのである。


 そんな母はちょっとご立腹という顔をして、


 「でもね、母さん、ちょっと思うの、あの子、清十郎さんに打たれて、倒れた後に、目が覚めても怒りもしなかったそうよ、あの秋って子、少し意気地が足りないかしらね」


 と言った。


 この時点で思った。


 もう無駄だ。


 まるでお館様の事を理解していない。


 お館様が本気を出さない限り、この誤解は母だけでなく、この町全体に続くだろうと蒼は思った。


 もとより強さなどに拘らないお館様の事だ、もしかしたらこの町を去るまで、こんな状態、つまり誤解されたまま終わるのではないかと言う不穏な思考が脳裏をよぎる。


 それでも自身にこうも言い聞かす。


 いや大丈夫だ、あのお館様が、なんのトラブルも無くこのまま無事に終わる筈がないのだ。葉山静流に武器を奪われて、その力の大部分が封じられている今であっても、あのお館様が、普通に、黙って、静かに過ごせるなど思えない蒼である。


 だから、今はいい。今は……。


 せいぜい、近いうちに来る、お館様の強大でいて日向ぼっこする悪鬼羅刹なハイエイシェント・デーモンも裸足で逃げ出す力の前に腰を抜かせばいいんだ。


 と、自分の母を見て、そう思う蒼であった。 


 今、私がお館様の被害甚大な能力を語ったところで勘違いも甚だしい母様が理解してもらえるとも思えない。


 だから今はいい。


 今は……


 今はこの時、はのお館様の宴の準備を進めようと、そう思った。


 すると、今度は蒼の祖母、褐は蒼の耳元で、そっとこんな事を言う。


 「あの坊、また強くなってるね」


 ああ、おばあさまだけは理解してくれる。


 母親の不理解に嘆き悲しむも、きちんと理解者がいることに今は安堵している蒼でもあった。


 だから思う。


 この町、毋の代、大丈夫かな?


 今はまだ先の来ない未来に思いを馳せる蒼であった。

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