その22【静流お姉さまとの出会い】
葉山静流の狙いは、空の思っていることとはかけ離れていた。
「すごいね、私の気配というか闘気みたいなもの……、小学生でもわかるんだ」
と言ってから、
「わざとダダ漏れにしてるの」
と言った。
その言葉は、空にとって理解しがたいものであった。なぜなら、ここは戦闘集落である。皆、ここの大人の女達は一騎当千の猛者揃いである。
そんな所で、イキがって喧嘩を売るなんて自殺行為に等しい。
少なくても空から見て、この葉山静流は、そんな事を理解していない人間には見えなかった。
その答えを、あっさりと静流は言う。
「また真壁が叩かれたら嫌なの、絶対にここにいる時は守るからって約束なの」
そして、
「だから、中途半端に気を張って、こっちに攻撃を仕掛けるようにしてるのよ」
と言った。
つまり、この気配はワザと外に垂れ流して、攻撃を自分の方に向くようにしていると言う事なのである。
さらに静流は、空に向かって、
「そっか、この程度じゃ、この町なら、小学生にも小生意気って思われる程度なんだね」
と言って、
「じゃあ……」
そう呟いた瞬間に、空は反射的に、今いる場所から少しでも遠く離れるために、つまり逃げるために、飛びそうになる。
目の前にいる、わずか数歩の位置にいる葉山静流から出される気配が全く違う何かに変わった。もっと重くてまとわりつくような何か……。
その正体に気がつけない空だ。
足に力が入る、「今だ!」と思う。
しかし実際は動けない。
そう、動いたらやられる、本能はそう捉えた、自分の思考も同じ答えを出した。
なんだこれ? 今まで自分が感じたことのないザワメキ……、体験したことのないプレッシャー。
「あ、ごめん、やりすぎた、引っ込めるね」
空の背中に冷たい汗が一つ流れる。
これがダンジョンウォーカー。
これが蒼様のいる世界。
驚愕する空ではあるが、もちろん一般のダンジョンウォーカーはここまで凶悪ではない。
一応、この葉山静流もまた、ダンジョン最強の一人であり、あの真壁秋のパーティーメンバーなのである、空が、いやこの町の人間なら誰もが敬う大槻蒼と同じ立ち位置にいるダンジョンウォーカーなのである。
そして、葉山静流はこうも言った。
「あなた達が棒で叩いた、真壁秋は私よりも強いんだからね」
とどこか誇らしげに言う。
「はい」
とは言うものの、全く想像がつかないのもまた事実であった。
この人より、あの婿様の方が強い?
そんな片鱗などまるで感じなかった。
何より、どんなに普通にしていたとしても、強者は強者であるがゆえにそれを隠せないものだと言うことを、今、目の前の静流が証明したばかりだ。
そう思う空は立ち上がりながら一瞬フラつく、肉体的にはなんの損傷もない彼女は自分が軽く精神攻撃を食らっていたことになど気がついてはいない。だがダメージは目に見えた明らかで、どうもふらついてしまう。足にも力が入らない。戸惑う空に、
「ごめんね、ちょっと精神削ちゃったかも」
と言う、空の頬に触れる静流の手から暖かい何かが流れ出てくる。
何かに満たされて行く、今までに感じた事の無い暖かさに、心から震える空であった。
「もう大丈夫、ごめんね、ちょっと大人気なかった」
と言ってから静流は、
「後、真壁探したいから、付き合ってもらえると嬉しいんだけど」
というと、自然に潤んでくる人み、込み上げてくる熱い思いが、空に、
「はい、静流お姉様!」
と言わせてしまう。自然に出てしまう。
一瞬、びっくりする静流だが、同時に驚いているのは空も一緒である。
「うん、いいよ静流で、普通に呼んで」
と言うものの、以後、この呼び名が空の中では決定的になる。
のちに、北海道ダンジョンに行った四胴空が、生涯を通して尊敬するお姉様との感動の出会いを果たしたと、自身の運命を語ることとなるのであった。