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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その21【運命の出会いでした……】

 四胴の長女、空は気がついたら、2時間ほど経っていた。


 短い時間だったが、ぐっすり眠ってしまったようだ。


 本家、大槻の屋敷は、今夜の歓迎のためであろう、宴の準備に忙しいようで、特に起こされることもなくほおって置かれたのだろう、しかも、この家の婿ともなる真壁秋の意向なら、口を挟むのも謀られる。 


 空は、一瞬、この場所がどこで、自分が誰で、ここで何をしていたかを喪失していた状態であったが、あの時の優しく自分を布団の中に引きずり込む、それでも強い手の感触と、かすかにこの布団に残る、決して自分ではない男子の若干の汗の匂いに、戸惑い、ここで安眠できる事、を空は何をどう考えても今の自分ははしたないと思えた。


 そっと布団を出る。そんな空に、


 「おはよう」


 と声をかけられて、驚き廊下側の方を見ると、空の知らない女の子が立っていた。


 いや、女の人、だろうか。


 彼女は自分をジッと見て、


 「私も寝坊したの、真壁の寝てるところに来たはずなんだけど……」


 と言って、多分家の者に案内されたのだろう、しかしそこには目的とする人物はいなくて、見知らぬ自分がいる。彼女も戸惑うのも無理は無い。


 空はその女性、自分よりも年上に見える、聡明そうな顔つきに優しくでもどこか鋭い瞳、均整の取れた身体つき、空は自分の記憶に符合させる。


 すぐさまその照合は結果を生み出す。


 あ、この人、きっとお婿様の愛妾の人だ。


 自分の家、つまり四胴の家で学習した。くれぐれも粗相の無いように、知らない人間関係は既に空の記憶の中にある。


 と言うことは彼女もまたダンジョンウォーカー。


 スッと、ただ自分の前に立つ姿に底しえぬ実力を感じた。


 空も小学生とはいえ、多紫の女である。


 ある程度の戦闘能力は持っている。


 だから、一度でも向かい合えば、その者が強いか弱いかわかる。


 そしてこの愛妾さんは間違いなく空よりは強い。


 もちろん、小学生六年生である空は、愛妾、つまり妾というその言葉の意味を知っている。この町の女子はその手の教育には余念はない、と言うか、この歳ともなると、この町の大人の女も、ある程度は大人の扱いをする。これはこの町に限らす、一般社会においても女子の方が精神年齢が上のせいでもある。


 「真壁はどこ行ったか知らない?」


 ともう一度聞かれる。


 首を横に振る空は、そのまま布団を出る。


 そして、


 「存じ上げません」


 と一言言った。


 ちょっと近づくのが怖かった。


 これは空の知らない強さだ、ただ止むことなく垂れ流している。


 すると、彼女は、


 「私、葉山静流、真壁秋の彼女……だったらいいなと思う者よ」


 と初めは普通に、最後の方は自分で言ってる事に不機嫌になりながら言った。


 「私は四胴 空です」


 「中学生くらい?」


 「いえ、小学6年生です」


 「ええ? 本当に? 今の小学生ってこんなに発育がいいんだ」


 と素で驚くその姿は、どこにでもいる普通の中学生に見えた。と言っても、この多紫町自体が普通ではないのであるから、その基準は曖昧になる。


 少し、近づいた、距離が近く感じたから、空は言う。


 そこは四胴家の娘としてハッキリと言っておく。つまり釘を刺した。


 「僭越差し出がましく申し上げます」


 とあくまで丁重にでながら、


 「この町において、そのように自身のお力を誇示するのは、いささか要らぬ反感を買うかと思われますが?」


 と、静かに言った。つまり、この町において、自分は強いなどと意識を、言うならば殺気のような物を垂れ流しするなと、そう空は言っているのだ。


 言い方を変えると、「イキがるなよ!」と表現になる。


 きっとダンジョンウォーカーと言うのはこう言う輩なのだろうと思った。一瞬見た時は話のわかるお姉さんだと思った、しかしこうも戦う、いや戦える意思を前に出されると、たとえ、半人前の町の女としても黙ってるわけにはいかないと、空は思う。


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