その21【運命の出会いでした……】
四胴の長女、空は気がついたら、2時間ほど経っていた。
短い時間だったが、ぐっすり眠ってしまったようだ。
本家、大槻の屋敷は、今夜の歓迎のためであろう、宴の準備に忙しいようで、特に起こされることもなくほおって置かれたのだろう、しかも、この家の婿ともなる真壁秋の意向なら、口を挟むのも謀られる。
空は、一瞬、この場所がどこで、自分が誰で、ここで何をしていたかを喪失していた状態であったが、あの時の優しく自分を布団の中に引きずり込む、それでも強い手の感触と、かすかにこの布団に残る、決して自分ではない男子の若干の汗の匂いに、戸惑い、ここで安眠できる事、を空は何をどう考えても今の自分ははしたないと思えた。
そっと布団を出る。そんな空に、
「おはよう」
と声をかけられて、驚き廊下側の方を見ると、空の知らない女の子が立っていた。
いや、女の人、だろうか。
彼女は自分をジッと見て、
「私も寝坊したの、真壁の寝てるところに来たはずなんだけど……」
と言って、多分家の者に案内されたのだろう、しかしそこには目的とする人物はいなくて、見知らぬ自分がいる。彼女も戸惑うのも無理は無い。
空はその女性、自分よりも年上に見える、聡明そうな顔つきに優しくでもどこか鋭い瞳、均整の取れた身体つき、空は自分の記憶に符合させる。
すぐさまその照合は結果を生み出す。
あ、この人、きっとお婿様の愛妾の人だ。
自分の家、つまり四胴の家で学習した。くれぐれも粗相の無いように、知らない人間関係は既に空の記憶の中にある。
と言うことは彼女もまたダンジョンウォーカー。
スッと、ただ自分の前に立つ姿に底しえぬ実力を感じた。
空も小学生とはいえ、多紫の女である。
ある程度の戦闘能力は持っている。
だから、一度でも向かい合えば、その者が強いか弱いかわかる。
そしてこの愛妾さんは間違いなく空よりは強い。
もちろん、小学生六年生である空は、愛妾、つまり妾というその言葉の意味を知っている。この町の女子はその手の教育には余念はない、と言うか、この歳ともなると、この町の大人の女も、ある程度は大人の扱いをする。これはこの町に限らす、一般社会においても女子の方が精神年齢が上のせいでもある。
「真壁はどこ行ったか知らない?」
ともう一度聞かれる。
首を横に振る空は、そのまま布団を出る。
そして、
「存じ上げません」
と一言言った。
ちょっと近づくのが怖かった。
これは空の知らない強さだ、ただ止むことなく垂れ流している。
すると、彼女は、
「私、葉山静流、真壁秋の彼女……だったらいいなと思う者よ」
と初めは普通に、最後の方は自分で言ってる事に不機嫌になりながら言った。
「私は四胴 空です」
「中学生くらい?」
「いえ、小学6年生です」
「ええ? 本当に? 今の小学生ってこんなに発育がいいんだ」
と素で驚くその姿は、どこにでもいる普通の中学生に見えた。と言っても、この多紫町自体が普通ではないのであるから、その基準は曖昧になる。
少し、近づいた、距離が近く感じたから、空は言う。
そこは四胴家の娘としてハッキリと言っておく。つまり釘を刺した。
「僭越差し出がましく申し上げます」
とあくまで丁重にでながら、
「この町において、そのように自身のお力を誇示するのは、いささか要らぬ反感を買うかと思われますが?」
と、静かに言った。つまり、この町において、自分は強いなどと意識を、言うならば殺気のような物を垂れ流しするなと、そう空は言っているのだ。
言い方を変えると、「イキがるなよ!」と表現になる。
きっとダンジョンウォーカーと言うのはこう言う輩なのだろうと思った。一瞬見た時は話のわかるお姉さんだと思った、しかしこうも戦う、いや戦える意思を前に出されると、たとえ、半人前の町の女としても黙ってるわけにはいかないと、空は思う。