その20【クズで鬼畜の女ったらしな僕の尾びれ背びれ】
焔丸君の伝え聞くところによると、
「はい、それはもう悪鬼羅刹の様に、姉上の組織を奪った挙句、命を奪おうとしましたが、姉上があまりに美しかったために、自分のものにしようと画策して、現在、強引に同衾までは果たした挙句、この本家を乗っ取ろうとしている輩と……」
ああ、すごい鬼畜でクズだね僕。
「それでもです、確かに姉上ほどの強者を打ち破って姉上の組織を潰すほどの武士ならば、この町の者も皆納得するんですが、言葉が悪い様ですが、お屋形様はとても『強い』とは言がたく……」
うーん、その辺もはっきり言ってるねえ、全く遠慮なく普通に言ってる。
でもまあ、剣を持ってない僕なんてそんなもんだよ、って言おうとしたら、
「弱いです、はっきり言って、私は父に打ち込まれる人間を初めて見ました、あの父です、この町でも最弱な父にです」
いやいやいや、自分の父親を、例え事実だとしても言っちゃダメでしょ?
そしたら、自分の言葉に改めて気がついた焔丸くん。
「すいません、あまりにショックで本心から言ってしまいました」
って言う、いや本心なら余計に悪いよ。ちょっとこの子、桃井くん的な扱いをしてた僕だけど、きっと今まで僕の周りにいなかったタイプの人間だな、って確信したよ。
「で、でも父は偉いんです、あんなに弱いのに、立派に生きてます、でもです、そんな父に不意打ちとは敗れたお屋形様は、この町最弱の認定を受けてしまった、と言うことになります」
おお、僕の気絶して寝込んでいる間にそんな序列が決定されていたのか……。
感心してる僕なんだけど、焔丸くんは畳み掛ける様に言ってくる。
「でも、私は、あの時点で、あの出来事が、お屋形様の実力とは思えないんです」
と言った。そして、
「あの従者の方、2名ともかなりの腕前ですよね?」
って言われる。
「葉山と薫子さんの事?」
「はい、後、お屋形様のお母上様も、底が知れません」
うん、まあそうだろうね、母さんはこの際度外視するとして、二人ともダンジョン内ではかなりの強者だ。
焔丸くんはキチンと人を見る目たあるねえ、と感心する。
そして、焔丸くんは言うんだ。
「世間一般には弱い男の方が女性対して魅力があると言う事なんですかね?」
と大胆な仮説を提示してきた。
「いや、どうだろう?」
その辺についてはわからないからそんな答えになってしまう。そんな僕に、焔丸くんは、蒼さんに良く似た大きな切れ長の目で僕を見つめて言うんだ。
「私の、人生最大の疑問があるんです」
答えられるといいけど……。
「なぜ母は父と結婚したんでしょうね?」
いや、それ、初対面の僕に聞かれても……。
本当に、どこかの世界の七不思議を語る様な口調で言うんだ。
「だって、父ですよ、仕事とかもできなし、家の中ではゴロゴロしてるだけ、頭も悪いんです、不潔だし、ヒゲも剃らないし、息も臭いです、何より武人としては最低です」
よくもまあ、そこまで実の父親の事を言えるよなあ、って感心した。
「あ、でも嫌いではないんです、受け入れてます、存在を否定はしてません」
その言い方は庇ってないよ。父親に向かって存在とか言っちゃダメだよ。
「だから、僕、思うんです、この謎も、もしかしたらお屋形様と姉上をみていたら解けるのかなって」
謎は謎のままじゃダメなの? って聞きそうになるけど、この話題に沿って行きたくなくて、話題を変えようって思って、
「焔丸くんて、大人っぽいよね」
って差し障りのない話題を振るだけで精一杯な僕だった。
この町の小学生ってみんなこんな感じじゃないよね?
多分、違った意味で、この町、多紫町の恐ろしさを感じる僕だったよ。