その19【義兄と義弟】
なんて事ない、普通の町だなあ、って思ってあたりを見ながら僕はのんびり散歩してた。
いや、町としての作りは北海道とは全然ちがうんだけど、ほら、蒼さんの、言うなれば忍者の隠れ里な訳だからさ、その辺を期待しつつ散策してるんだけど、いたって普通なんだよなあ。
ともかく、あの後、しつこく謝り倒されて、関係ない筈の五頭さんまでにも謝られて、ちょっと居た堪れなくて、そのまま逃げるように蒼さんの屋敷を出てしまう。
別に特に驚く事でもないのにね、ダンジョンだったら、こんな事日常茶飯事だよ。
と僕はのんびりと町の中を歩いている。
遠くの方には段々畑とか田んぼとかもあって、北海道とはまた違った牧歌的なというか広大さを味わっていた。
きっと、地方の田舎ってこんな感じなんだなあ、って北海道の場合はちょっと普通というか、田舎とかってなくて、都市は集中するんだけど、人も広く長く広がってるから、この町みたいに、住宅や施設、畑や田んぼ、川や山までもこうも密集はしてなくて、何もかも近くて、変な迫力があって、僕にとっては面白かった。
僕らはみんな蒼さんのお屋敷のお客さんになってるけど、僕らってのは僕の家から来た葉山と薫子さんと母さんと僕ね。それ以外はみんなそれぞれの家に行ってるんだってさ。
つまり、辰野さんは一心さんの家に、水島くんは紺さんの家にいるらしい。白馬さんは三爪さんの家だって言ってたな。そしてそれ以外はそれぞれ里帰りだそうだ。だから五頭さんなんて、折角地元に帰ってきたって言うのに、僕がいるとどうも蒼さんの家から帰れなくなってるみたいで、その辺はちょっと考えないと可哀想で、だから僕はこうして外に出ている訳なんだ。
でも、決して一人じゃないんだよなあ。
「こちらが、紅井川です、珍しいことに、クニマスも泳いでます」
と一々と僕の横で説明してくれるのは、蒼さんの弟の焔丸君。
まだ小学校中学年だって言うのに、この落ち着きぶりだ。
僕が彼くらいの年の頃って、多分、毎日ダンジョンのことばかり考えていたくらいで、全くもってこんな落ち着きというか、風格はなかったなあ、とそう思うよ、本当にしっかりしてる。
「あ、兄上、聞いてますか?」
うーん…………。
「それでですね、兄上、あの山の麓にあるのが……」
「焔丸くん、その兄上ってのはさあ」
なんかねえ、僕、この町に来てびっくりしたのが、蒼さんと結婚するのがもう前提になってるみたいで、蒼さんのお母さんからは、『婿殿』で、この焔丸くんからは『義兄』扱いになってるんだ。
「ああ、そうですね、まだ婚礼前ですから、正確にはどのようにお呼びすればいいのか……」
いや、前も後もないんだけどなあ、真剣に悩んでるよ、焔丸くん、しばしの思考中の末、言った言葉が、
「殿?」
うーん、このやり取り懐かしいなあ、かつてしたことあるなあ、桃井くんだね言ってたの……
「いや、殿はちょっと……」
遠慮させてもらう。
「では、姉上同様、お屋形様にします」
うん、もうそれは言われてるから、一人増えるくらいはいいや、ってなる。
そして、焔丸くんは僕に尋ねる。
「お屋形様。一つお尋ねになってもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
焔丸くんは考える。すごく考えてる。
そして、
「あの、大変言いにくいのですか、姉上は、一体、お屋形様のどこを好きになったのでしょう?」
と、考え込んだ割にはズバッと聞いてきた。
思わず、「うーん」って悩んでしまう僕は、
「その前にいいかな?」
って言って、今、僕の話ってどんな風に伝わっているのか尋ねてみようと思って、
「あのさ、僕ってどんな風に話が伝わってきてるの?」
すると、焔丸くんは、僕に気を遣うように言葉を並べ始める。