その16【争いの無い世界に為に】
おお、武者鎧的な姿以外の一心さんを初めて見たよ。
まんま大和撫子だよ。
「やあ、こんばんわ、私たちもご一緒させてもらうよ」
って爽やかに挨拶して来た。
「ジャージ姿じゃない君達を初めて見た気がするなあ」
と爽やかに笑って辰野さんは言うんだけど、まあ普通に私服姿の僕らなんだけど、なんか先に言われてしまったみたいでちょっと悔しいと思ってしまう。
それにしても、みんなそんな一般の姿で、ちゃんと武器とか所持してるんだね。
それぞれ、鞘にしまって、数日分の滞在に必要な着替えや日常品と一緒に持って歩いてる。
そうだよね、やっぱり武器はどんな時だって自分で持つべきだよね。
と、そう思うから、葉山に、
「ん!」
って片手を差し出すと。
「はい」
って言って握られる。
ううん、違うよ、そうじゃないよ。あからさまに不満な表情をぶつけると、
「じゃ、何?」
って言うから、
「僕の剣、自分で持つよ」
って言ったら、
「ダメ」
って言われた。
「なんで?」
「危ないから」
と率直に言われる。
「危なくないよ、使い慣れてるから」
と言うと、今度は、
「お前、深階層で世界蛇相手に何をしたのか忘れたのか?」
って薫子さんに突っ込まれる。
その薫子さん、今日はスカート姿だよ。本当に制服以外のそんな姿初めて見たよ。
って思わず見つめると、
「み、見るなよ、これは、今日花様に選んでいただいた服装だぞ、異論は認めん」
とか言ってる。
「薫子ちゃんは足とか綺麗だからこのくらいは出すべきよね」
って母さんが照れる薫子さんの後ろからその姿を覗き込んで言うんだ。
「今日花様、しかし、これはいささか……」
といいかけるも、
「大丈夫、薫子ちゃんは可愛いの、ねえ、そうでしょ?」
って僕に問いかけてくるから、
「うん」
って素直に言った。確かにね、僕もそれは思うよ。
「やめてくれ! これは一体なんの罰ゲームなんだ! 葉山静流も写真を撮るな!」
気がつけば葉山がカメラマンの様に、いろんなアングルで薫子さんの姿をスマホに収めている。
「だって、薫子がワンピとか、普段絶対にないでしょ」
とか言ってる。
って、なんとか身を隠そうとする。そんな薫子さんだって自分の荷物にしっかりカシナートを持ってる。僕だけが僕の武器、つまりマテリアルソードを持てないんだ。葉山が持ってる。白い布にぐるぐる巻きにされて、葉山の武器と一緒に抱えられている。
「葉山もさ、持ちにくい様だからさ、いいよ自分で運ぶから」
と言うものの、
「私たちね、わかったの、どうして諍いが、争いが始まってしまうかが……」
と言い出す。
そして、
「それは武器があるからなのよ」
え? 何言ってるの?
そしたら、今度は薫子さんが、
「違う言い方をすれば、真壁秋が武器を持っているから、そこに戦いが生まれると言ったほうがわかりやすいか?」
とか言われて、
ううん、違うよ、って言おうとしたら、
「真壁は、問題が生じた場合、特にその問題となっている、人もしくは団体が絡んでいたら、まず殲滅してからその後考えるよね?」
って言われる。
「だって、そっちの方が早いじゃん、それから相手の話を聞いた方がなんだか、みんな素直だし」
と言ったら、
「もうそれ、話し合いでも平和的解決でもないからね、普通に考えて圧倒的勝者が行う制圧だから、力による侵略だから、蒼さんのところでは絶対にそんなことはさせないからね」
って葉山に言われる。
ええーってなる僕だけど、怒ってる葉山に、というか女子に逆らえるはずもなくて、思わず、そこに救いを求めてしまう僕だけど、今回はそれをしてくれる人っていないんだよなあ。
「今回は春夏いないからね、誰も真壁を甘やかさないから」
とか葉山に言われてしまう。
言いがかりだね、僕、春夏さんに極めて温和に優しくされてるけど、いついかなる時も味方になってくれるけど甘えじゃないから、そんな事ないから。
って、僕の前に何故か蒼さんが回り込んで立っている。
なんか変な表情をしてる。
どうしたんだろ? って考えると、どうやら微笑みを作ろうと試行錯誤してるみたいだ。
ああ、そっか、蒼さん、僕の為に今日からここにはいない春夏さんの代わりをしてくれようとしてるんだな。
なんかありがたいけど、その今ひとつ笑顔になりきれない、思わず見つけたエログラビア見ちゃった、ってそんな顔、見ている僕の方が辛くなってくるから。
ほんと、ありがとう。
もう、十分。
さあ、飛行機に乗ろうね。