その13【多紫町青年会(消防団)①】
多紫町も、本家のある西町、この町の中心から離れた場所にある、ほぼ山側の位置に、この町の消防団の建物はあった。
つまり、多紫町青年組合の本部でもある。
概ね多紫町の男たち、つまり、各家の夫たちは、当番制で、子供達の見守り、交通安全のための自動車による巡回、そして概ね農業の手伝いや、人によっては鍛錬や専門となる職業に準じてこの町の運営に関わっている。
もともと、一般社会で仕事についていた者がほとんどで、そのままこの町でも同じ仕事をするものは多い。特に建築、土木、農林業の手となって日夜汗を流している。
もちろん、そんな男達は実質上、この町に閉じ込められる現状において、自分の人生において後悔などは微塵もない。
自分が生涯をかけて好きになった女性、つまり多紫の女達は、今でも自分たちを大事にしてくれる。
まあ、言って見れば老いも若きも、おじさんもおばさんも、おじいさんもおばあさんも、皆、ラブラブなのである。
驚くべきことに、この多紫町、なんと離婚率は、この町が里であった頃から、ただの一つもなく、つまりは一度夫婦になったカップルが別れる確率がゼロなのである。
ただ、残念なことに、唯一の別れが『死別』と言われている。そして何より以外に若く亡くなってしまった男性は過去数人いるらしい。
近年においても、病死すらないこの町において、かつて不幸は事に死別はあったのだと言う。
詳しくは記述が残っていないが、当時を知る者はすでに老齢で、しかも口を固く閉ざしていると言うから、何が起こってどのような結果になったのか、思わす察してしまうが、それは邪推というものだろう。
つまり、それ以降、不貞をする者など一人もいないという事だ。
話は横道にそれたが、この建物、一階車庫、二回は集会場という消防団の建物は、いい感じてこの町の男達の溜まり場になっている。
特に今日などは、この町の女達が本家に集まっているらしく、小さな子供のいない大人の男達はなんとなくここに集っている。
人数にして、十数名、各員読み物を持ったりスマホいじったり、中にはジッと瞑想していたり、各々好きに過ごしていた。
日常、家の中で仕事をする以外、全身全霊、家庭を大事にする彼等は、特に趣味もなく、たまに山菜採りや、釣り、もしくは狩りなどに出かけるくらいで、そんな時ですら各自妻を連れ添っているので、基本、自分の伴侶に用事ができると、この町の男達はやることもなくなるので、仕事以外だと、こうして、なんとなくここに集まる習慣ができてしまっている。
いい歳した大人が集まっているのだから、酒盛りにでもなるのが普通なのだが、ここの町の男達ときたら、お酒は自分の家で、家族のいるところで、特に自分の妻の手料理を食べながら、この町の地酒をじっくり飲むのが好きなので、特に昼間から、お祭りでもない限り酒を飲むという習慣もないので、各自、それぞれ、自分の好きなお茶やソフトドリンクを持ち込んで、ただ、何をするわけでもなく時をすごしている。
それでも、ここ最近、自分の仲間、つまりこの町に婿にくる者達がいるというのは、各家庭でも持ちきりの噂になっていて、今後、仲間が増えるのはどんな男だろうと言う話では盛り上がっている。何よりみな、この町の娘の婿なのだから、これからの者、すでに婿を迎えた娘、それぞれの立場で皆、良く話し合っている今日この頃でもあった。
そんな集まりでも、一応の長はいる。
本家、多月菖蒲の婿である、多月源十郎が、この男衆、青年会の集まりの一応の長となっている。
もちろん、最初は断ったが、本家の物の方が情報が拾いやすという事で、仕方なく引き受けて形になっている。
この源十郎は世が世なら、かつての宮本武蔵くらいの剣豪になっていたはずの男であった。剣に生き剣に死すための人生の筈が、いつの間にかこの町へと、菖蒲の婿になって言る人生になってしまったようだ。無論、後悔などはしていない。