その12【多紫町婦人会②】
だから婦人会のメンバーは、そんな健気な女子を見て、反応に戸惑う男子を見て思う。
『後はおばちゃんに任せなさい! うまいようにやってやるからね』
という気持ちでいっぱいなのだ。
うんうん、こっちはきっと大丈夫。絶対に上手く行く。
そう思うところで、問題なのは、これ。
真壁秋とその一行だ。
この町の跡取り娘の多月蒼が選んだ少年。
送られてきた彼の写真は、まるで緊張感のかけらもない。
何より、このような写真をもってしてもその者の像より、その人間が持つ、存在的な強さみたいなものは、この町の人間にならわかる。わかるのではあるが、この少年の場合全くそれがなかった。
しかも、この少年の家であろう、おそらく果たし合い。そこで木刀を持ってこの少年は簡単に負けているのである。それはもう完全に、疑いようもなく敗北している。
見る限り、何かハンデを背負っている風もなく、その上で完全に負けを認めて、家の中に入って行ってしまっている。
報告によると、蒼は、この真壁秋に完膚なきまでに敗れたという。
菖蒲は思わず、
「ありえない……」
と口に出てしまう。
すると、百目紺の母親であるメンバーの一人が、
「私も、この少年の報告を受けています」
と言ってから、
「一人で深階層の大規模組織を壊滅させたとの報告があります」
と言った。
「それは、娘さんからの報告ですか?」
と菖蒲が尋ねると、
「はい、間違いありません」
と答える。
子供の頃から厳しく鍛えられる百家のご息女の意見。決して偽りなどないはずだと、菖蒲は確信している。
矛盾が生まれた。
その答えを出すべく、再び真壁秋の写真を見ようとすると そんな、テーブルの上に広がる数枚の写真の中に、葉山静流の
写真が現れる。
「この少女は?」
思わず目に止まった、静流の姿に、
「わが里の人間とは違いますが、相当の強者ですね」
そう、多分その能力はわが娘、蒼にも迫るのではと菖蒲は思った。
今度は一心浅葱の母もそれに準じた。
そして、もう一人、喜耒薫子の写真も。
「こちらもいいですね、子供とは思えない安定感があります」
とじっと見つめる。
そして合点が行った。
そうか、そういうことか。
つまりは、この少女達に蒼を加えることで、この真壁秋と言う少年は力を得たのだ。
結論から言うと、真壁秋が強いのではない。一緒にいる少女達が最強なのだ。
なんと言うことだろう。
うちの娘、この男の子にすっかり惚けてしまっているのか?
確かに自分が好きなら強さは関係ない。惚れたら連れておいでとは言ってある。
なんと言うことだろう、この歳にして、自分の娘は男に狂って、偽りの報告を上げて、真壁秋の地位を確立しようとしているのだ。
多分、一緒にいる少女達、つまりは葉山静流と喜耒薫子もたぶらかされているのだろうと合点が行った。
なるほどね。
菖蒲はもう一度、真壁秋の写真を見つめる。
「とんだ悪党で女ったらしね」
もちろん、以前、菖蒲は自分の母親から真壁秋の報告は受けている。
その内容というのは俄に信じがたい内容であった。
だから、菖蒲は思った。
母も衰えたものだと。
ここは自分がしっかりしなと。
ともかく客人を迎える準備。
娘が選ぶなら、どんな男でもいい。
それが娘の幸せならば、菖蒲は何もいうことはない。
そして、もう一度、真壁秋の写真を食い入るように見て思う。
まあ、顔は可愛いんじゃないかしら。
いやね、親子って好みも似るのかしら。
そんな事を考えつつ、これから来る嵐のような日々を想像して、なすべき事をしようと、そう誓っていた。