第83話【クソ野郎さん特定完了】
あの時のクソ野郎さんの特定の為に、僕は色々と考えていた。
「うーん、性格とかかあ」
「まあ、そっちも難しいですけどね、特に短い間の接触ならなおさらですよ」
「変わった人だね」
「ダンジョンウォーカーは深層階に行けば行くほど性格はねじ曲がるって話です、秋さんも気をつけてください」
「え? 僕もあんな『クソ野郎さん』みたいになるって事?」
すると、さっきまで普通に話していた角田さん、急に苦虫を潰した顔になって、
「ああ、あいつか」
って言った、どす黒い声で、ニュアンス的には『死ね』って言っているみたい。
今、僕が発した言葉の中で、唯一人物らしきを形容したと思える言葉は『クソ野郎さん」しかない。
その『クソ野郎さん』で、角田さんは完全に人物を特定したみたいで、模索するのをやめていた。
「あの野郎、秋さんの頭小突きやがって、今度会ったら首から上吹き飛ばしてやる」
なんて物騒な事を言ってる。
「角田さんの知り合いなんですか?」
と尋ねると、
「有名人ですよ、自分の『姉ちゃん』をはべらせている救いようのない変態です」
あ、あの人、『クソ野郎さん』のお姉さんだったんだ、なんか似た感じはしなかったけど、それに、思い出してみると、お姉さんが弟に向かって敬語だったよね、なんか完璧な主従関係な感じがが印象に残っていた。
ん? はべらすってどういう意味だろ?
あんまりいい意味じゃなみたいだけど、だから割とヤバ目な変態だったんだな。確かに乱暴で、粗暴な感じだけど悪い人ではない気はしてたんだけど。
そして角田さんは、
「で、秋さん、奴は秋さんに何か言ってませんでした?」
ってちょっと真面目なヤンキー面に変わって尋ねて来る。
「何かって?」
「そうですね、スキルとか、職種みたいに関するような事です」
ああ、確かにチラッとは言われたなあ、って思い出して、でもそれ以上に意地の悪い言い方の方が印象深くて、当時、っていうか昨日を反芻して、思い出しイライラを感じながら僕は、
「教えないって言われた」
そしたら、角田さんは大笑いして、
「あいつらしいですね、ホント、ムカつきますねあの野郎」
と言った。
この時点で、そういえば彼も『王』の一人だったのかも? ってそんな言動も思い出していたんだけど、ついそのことについては失念していた。だって、ちっとも王様ぽくなかったからね。
そして、それを言ってしまうと僕もその最たるものになる。他に類を見ないになる。
おおっと、春夏さんピンチだ。
角田さんと話しながら、春夏さんの方を見ていると、もう1体の紙ゴーレムが春夏さんの戦いに参加して来た。今度の奴は額に『12点』った書いてある。手書き赤文字だったので、多分、テストの点数と思われる。よかった、一緒に名前でも書いてあったら自害クラスの晒し者だ。動き回る訳だし、誰か知らないけど、命拾いをしたな。赤文字
さすがに、3体では分が悪いらしい。
『迷い犬』の放った一撃が、春夏さんを襲う。
「痛!」
珍しく春夏さんが小さな声を上げた。
「春夏さん!」
「大丈夫、掠めただけ、心配しないで」
と元気な声。
「紙のゴーレムの攻撃では怪我とかはしませんが、触れたところは痛覚を刺激されて、若干痛みます、だから驚きますよ」
と、角田さんが教えてくれた。
「痛みを感じてしまうって事は、敵の攻撃が当たって事ですから、前衛として気をつけていかないと、一体多数の戦いに慣れておけって事ですかね」
って続けて角田さんは言った。
何それ、安全な攻撃じゃん。怪我とかしないで、痛いだけって、ある意味安全な敵だよね。
春夏さんは、さっきより大きな動作で3体の紙ゴーレムの攻撃をかわし始める。
その時だ、彼女のジャージのポケットから、何かが落ちた。
それは、向きが良かったみたいで、完全に宙に舞って、僕の方へ飛んで来る。
その正体は後で知る事になるのだけれど、現時点での僕はそれがなにかなんてまるで考えてなくて、気にもしてなかたから、セイコーマートかツルハのポイントカードくらいにおもっていたんだ。