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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その7【多紫町小学生の恋愛事情】

 その日、多月焔丸は校舎の裏側に呼び出されていた。


 焔丸は校舎を背に、そしてその前には一人の女子が立っていた。


その間には独特の緊張感とも言える、永遠とも言える時が流れていた。


 伏せ目がちなその瞳を意を決して焔丸に向ける少女。


 そして、何を言い、何を思ってその意思を少女は瞳に乗せているのあ焔丸は十分すぎるくらい理解していた。


 多月家の男児、つまりこの多紫町にあって、その本家に誕生した跡取り。


 実に8代ぶりの男子という事になるから、彼が生まれた時は、まさに町を挙げてのお祭り騒ぎになり、その誕生させた夫婦はまるで、建国の英雄並みにたたえられていた。


 正確にいうなら今もまだその雰囲気というか町全体のノリは消えてはない。


 この、焔丸が道を通るだけで、年老いた嫗翁は家から飛び出し、拝み出す始末である。


 それでも、近年、倍近く男児の出生率は増えてきている。と言っても1%が1、5%に増えたくらいの違いしかないが、それでも、以前よりも男子の数は多い。


 そして本家の焔丸は、自分自身の存在は皆にどのような影響を与えているか、そして今後、この町に取って、どのような立場になるのかは誰よりも自覚し理解している。


 やがて、この町を背負って行く立場である。つまりはこの隠れ里の責任者になる少年ということになる。


 でも、だからと言って、今のこの状態はその立場からくるものではない。


 かと言って、焔丸自身の人間としての姿、性格、態度など普通にモテるからというわけでもなく、ただ男子だから。この町にとって希少な男子だからこそのことである。


 だから、こんな日常が起こりうる。


 「焔丸君、付き合ってください」


 焔丸の正面に構えて、ガバッと頭を下げるのは、多紫小学校に通う、6年生の女子、


 四胴家の長女である四胴(しどう) (そら)である。


 学校1の美少女であり、その将来はこの町でも一二を争う美少女になるのではと噂されている逸材な少女で、隣の中学校の女子よりも体格もいい。


 つまり、小学生にしては発育の良い美人であった。


 いずれ町一番の美女へ変化を遂げるであろう美少女は、長く手入れされた髪を振り乱して、自分にとっての後輩、未だ小学4年生の子供に愛の告白をしているのだ。


 されている焔丸もまた、母である菖蒲に似て、顔立ちは整っている。ともすると少女とも言われがちなそんな顔付きである。姉の蒼といい、この姉弟は、一ミリも父親の見た目を受け継ぐことがないのはまさに僥倖なことでもあった。 


 さて、この焔丸であるが、このようなどこから見ても非の打ち所がない美少女に愛の告白をされているというのに、浮かない顔をしている。


 なんというか乗り気ではない。そんな表情だ。


 返事をもらうまで、恐らく四胴の娘は頭をあげるつもりはなさそうだ。


 だから、焔丸は意を決して言う。


 「ごめん、君の気持ちには答えられない」


 と一言で切ってしまう。


 そこに、同情も、また、一瞬でも考え込む余地さえない。


 少女の肩は震えた。


 そのまま、そのままの姿勢を維持している。


 そして、校内1の美女はもう一度訪ねた。


 「絶対にダメかしら?」


 対して焔丸は、


 「うん、ダメだよ」


 と変わらぬ返事を返した。


 すると、空は、すっと顔を上げて、細くて美しい髪をかき分けて、


 「そう」


 と言って、その場を離れる。


 その時、影に隠れてた彼女の取り巻きであろう女子が付いてゆくのであるが、その場に残された焔丸に対して、例えようのないほどの冷たい目をして見つめていた。


  完全に女子の姿が見えなくなると、


 「良かったの? 焔丸くん」


 と声をかける同じクラスの男子が現る。


 少し、気の強そうな、そんな表情をしている焔丸に対して、暁はどこか優しそうな、そんな表情をしている。


 彼の名は、十足暁。焔丸と比べても見劣りしない顔つきスタイル共に整った美少年だ。


 十足家のご息子であり、数少ない男子の一人だ。


 「聞いてたの? 暁くん」


 と、特に罪悪感もなく、小学校4年生らしい笑顔で、友達に笑いかけた。


 「うん、多分、次は僕の番だからね、きちんと断るように母さまからは、言われてるから、うん焔丸くんはきちんと断ったね」


 と暁は言った。


 「気持ちはわかるけど、そんな事で、気持ちもないのに告白とかしないでほしいよね」


 と焔丸は本当にウンザリと言った顔で呟く。


 「うん、そうだね、でも、この歳での女の子たちの中には、あの四胴さんみたいに、この町を離れたくない人もいるんだよ、まして相手が焔丸くんなら、存外本気だったのかも」


 と言った。


 この町の女子は、早くて中学生、遅くても高校生で、この町を離れる。


 その掟は絶対であり、また誰も逃れることはできない。


 ただ一つだけ、この町に止まる事ができる女子はいる。


 それは、この町の希少な男子と、公認のカップルになり、つまりは婚約すればいいのだ。


 もちろん、この場合、お互いの意思と何よりそれぞれの家の許可がいる。


 少なくとも片思い程度ではこの条件に当てはまらない。


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