第277話【ブレイドメーカー⑥】
僕の顔をじっと見て、笑顔に近いかもだけど全体的には変な表情になってる蒼さん。
今、春夏さんいないから代わりになろうとしてくれてたのかな?
でも急に対応は難しいみたいで、春夏さんてのあの笑顔って、なんかすごかったんだなって改めて思ってしまう僕だったよ。やっぱり春夏さんは偉大だよね。でもありがとう蒼さん。無理しないくていいよ、って言いたい。
で、その蒼さんを見て思い出した。
「あ、そうだ、川岸さん」
って呼んだら、雪華さんとお母さんから、
「はい?」
って言われる。
そうだよね、どっちも川岸さんだもんね。でも雪華さんは雪華さんて呼んでる筈だけど、反応してしまうんだね。気をつけないと。って思って何をって自分でツッコンでしまう僕だよ。
「そうね、じゃあ私の事は雪灯って呼んでね、お父さんは直人でいいわよ」
って雪華さんのお母さんに言われる。なぜ今ここにいないお父さんの言い方まで指導されたのだろう、って思うと迷うだろう事は保留にして、改めて、
「雪灯さん、実は、今日は蒼さんの武器の事で来たんですけど」
って話を切り出してみた。
「多月さんの? どうせ、ご実家に行かれるんでしょ? 近日中に?」
「いや、僕らみたいな武器とか他にないかな? って思ったんです」
って尋ねると、
「ごめんね、今、君たちが持ってるので全部なの、失敗した製品についてはその都度、処理してるから残ってないし」
って言われる。
「もう一つ、これのシリーズ、残ってたはずですけど、それをちょっと使えるかどうか試してみたいんです」
と言ってみた。
ちょっと図々しいとは思ったけど、こっちとしても蒼さんにも壊れない武器っていうのを持ってもらいたいから、もちろんそれは、僕が壊してしまったと言う罪悪感から逃れる為の一つの方法な訳で、だからどうしても蒼さんの為に言っているってわけでもないんだ。
できればって感じで言うだけで言ってみた。
すると、雪灯さん、ちょっと困惑して、しばらく考えて、意を決したように言う。
「ごめんなさい、それはできないの」
って、なんだろう、ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら言う。なんか仕草が雪華さんだ。こう言う所は親子だよね。
まあ、そうだよね、僕が所持してる剣も、葉山の持ってる剣にしても、もともとが無理やり持ち出してる訳だし、今はこんな形でいい関係にはなっているものの、こちらの都合ばかりってわけにはいかないもんね。
でも、まあ、僕、子供だから、この辺は甘えてもいいし、言うくらいならいいし、適度に許されるよね、とは思ってる。
でも、結果はダメなら仕方ないか、ここの武器なら下手に蒼さんの実家で作られる武器よりもいいんじゃないかな、って思ったんだけどそう言うわけにはいかなかった。
もちろん、決して蒼さんの実家に行くのがめんどくさいなあ、とか、怒られるんだろうなあ、とか言うんじゃないんだよ、あくまで可能性の問題って事だよ。
すると、今度は雪華さんが、雪灯さんに向かって、
「母さん、秋先輩達には本当の事を話しておいた方がいいと思う、当事者なんだし」
と、意味有りげな事を言う。
その言葉に意を決したように、雪灯さんは僕らに、
「あのね、最後の、貴方達の持っているマテリアルブレードの3本目ね、実は盗まれてしまったの」
え?
いや、ちょっと待って、
「それって、大事件じゃないですか!!」
言葉がまとまらない僕の代わりに、葉山が突っ込んでくれた。
「そ、そうなの」
って雪灯さんは言うんだけど、なんか取ってつけたかのように言うんだけど、
「散々、こっち側には管理の徹底とか言っといて、本拠地で盗まれるってどう言う事ですか?!」
と言ってから、葉山はハッとして、
「じゃあ、もしかしたら、小火って言ってたこのラボ半壊の正体って、ここが襲われたって事?」
って続けて聞いてた。
「そうなのよ、流石に大きいとはいえ民間企業なのよ、武装するわけにもいかないし、厳重に保管はしていたつもりだったけど、ここまでやられてしまうと、流石にちょっと、無抵抗ってわけでもなかったけど、こっちは貴方達みたいに非常識に強い人もいなかったし、でも不幸中の幸いで、建物の被害と怪我人だけで済んだし、こう言う場所だから、巻き込まれ被害も出なかったし、最悪だけど、それでも最悪の中の中の中だったのよ」
って誰に向かってか、よくわからない言い訳じみた事を言う雪灯さんだった。
まあ、確かにそう言う点では良かったよ、とは思うものの、
「これって技術的には国家秘密クラスじゃなかったでしたっけ?」
そんな事を言う僕も、ものすごい気軽に持ってるけどこの剣、マ
テリアルブレードって、確か素材や形、製造方法に至るまで秘密厳守だった筈。雪華さんのお母さんとか困った事にならないといいけど、ってちょっと本気で心配してしまった。
すると、雪灯さん、
「その辺は大丈夫だと思うわ、そう言う意図は無いと思うから」
って割としっかり、と言うかハッキリ言ってた。違和感があるくらい公言したた。
「お母さん、犯人を知ってるの?」
だよね、意図とか言っちゃってるから………、あれ? ちょっと待って。
その言葉の前に、これ犯人とかいるって、つまりは事故じゃないくて事件だって事? つまりラボを破壊した人が持ち出したんなら大事じゃん。
「ちょっと雪華、声が大きいわ、みんな心配しちゃう」
って何故かこっちに気を使って微笑んでくるけど、ごめんびっくりして微笑み返せない。いや、本当にどういこと?