第82話【ダンジョンを漫歩く蘇りし古き紙の巨人】
魔法スキル持ってる人って大抵、どっかしらの組織に入っちゃうし、おおむね中階層以降くらいにいて、こんな浅い階をうろうろはしてない。
特に魔法スキル同士の打ち合いぶつけ合いって、相当に派手らしいから、この辺については、ちょっと中階層あたり以上から期待している僕だったりする。
で、今、まさに、春夏さん、友人距離で戦ってる。
綺麗にかわしながら、軽く木刀を当てて、なんて繰り返して、自分の体の動きを試しているみたい。どこまで動くのか? どう動くのか? って感じだね。
紙ゴーレム相手に余裕だね。さすがサムライだね。
本当はもっと手強く、今までの敵、コインやハエよりは相当強いはずなんだけど、僕もさっき、このロングソードの一振りで、紙ゴーレムは難なく真っ二つになってしまい、所謂、超楽勝だった。強いな僕、でなく剣。
で、お試し中の春夏さんだけど、決して苦戦しているわけではない、今、春夏さんは2体の『紙ゴーレム』相手にしているんだけど今も納得しないで、パシ、パシって、木刀を、その紙面に当てて、感触を確かめているみたいな感じ。
避けて叩いて、受けて叩いて、振り返りもせずに背後の『迷い犬』に一撃を加えていた。戦っているっていうよりモンスターを練習に付き合わせている感じ。
とても綺麗な動き、春夏さんの攻撃って無駄が無いっていうか、一連の動きに切れ間なく舞踊のように2体の紙ゴーレムの間を舞っているみたい。見とれてしまうよ。
春夏さん、この前、スカイフィッシュと戦っていた一心さんの動きをトレースしてるみたいな、そんな動きをしているみたい。確かめるように、まるで自分の体の動きを、見本の動きに合わせてその性能を確かめてるみたいな、そんな形にも見えた。
一心さんも同じサムライだったから、きっと参考にしているのだろう、って思った。
で、僕の横では悩んでる角田さんが、クソ野郎さんの話を振って来る。
角田さん割としつこいな、僕は春夏さんを見ていたいんだけどな。
「他に特徴とかないですかね?」
って言ってるくから、
「ローブを纏った剣でも槍でもない中途半場な武器を装備して、メガネ美人な回復魔法を使える人が一緒って、結構絞れない?」
本当に見た目では結構特徴があると思ったんだけどなあ。
「そうですね、深層階の常連では、結構そういう見た目の人はいますよ、あと、装備の変更も割と激しいんで、それだけで特定は難しいと思います」
角田さんの話によると、上級な、ある程度登り詰めたダンジョンウォーカーな方達は、ダンジョン攻略目的の為に、何種類か装備を持っていて、目的に応じてコロコロ変えるから、見た目では判断できないらしい。真希さんの『守銭奴装備』とかもそういうものって事だね、あれはあれで目的がはっきりしていてわかりやすいけど。
「見た目よりも、その人なりとか言動とかの方がわかりやすいんですが、そっちの特徴ってなかったですか?」
うーん、インパクトは大きかったけど、実はそれほど、細かくは覚えてないんだよねえ。
多分、僕の性格だからさ、その人の強さとか予想されるであろう被害的な物とかを度外視しても、敵認定がないと、それなりに記憶には残らないって言うか、気にしないからね。
だから、僕は、すでにあの時、あの場所で会ったクソ野郎さんに対して、卑怯な最低でクソ野郎だとしてもさ、割と安全な人ってカゴテライズしてしまっていたんだ。
本当に、昔から知ってる人みたいな感じ?
不思議な感覚なんだけど、ともかく僕の中では敵にはなり得ない人っていう認定がされているんだ。
それよりも、もっと大事な特徴ってあった気がするけどなあ。
いい意味でも悪い意味でもあのクソ野郎さんて、インパクトが大きくて、態度もだけど、だから情報量が多くて、処理し切れてないってのが正直なところなんだよね。
でも、まあ、敵って訳じゃないから、良いや、って僕は思ってるから、角田さんには悪いけど、その断片的な特徴でしばらく悩んでもらおうって思ってるよ。