第275話【大柴千歳ラボ大破する、てかしてた】
砕けた説明を早口でしてくれる、どことなく落ち着かない様子の雪華さんのお母さんに、雪華さんは、
「お母さん、まだ怪我してるとこあったの? 全部言ってって、ちゃんとチェックしてって言ったでしょ!」
って怒ってる。そして雪華さんのお母さんのそばに寄って、白衣のあたり、ちょっと赤いなあって思ってたら血みたいで、雑に手当てした肘のあたりを雪華さん、メディック使って治癒してた。
「あ、ほんとだわ、また出血したみたいね、ダメね動くところは、母さん手当てしたのよ」
って他人事の様に笑ってた。
そして、そんな話を聞いてると、この事故、小火程度に発表されてたけどそんな規模じゃ無い上に、雪華さんがいたから人的被害を抑えているって言う構図が見えて来た。
結構、大きな事故だったんだ。
あ、ちょっと気がついたけど、そういえば雪華さんのメディックって、アモンさん由来ってか、アモンさんの奇跡による発現じゃあなかったっけ?
その事を訪ねてみると、
「もう完全にスキルとして定着してますから、アモン様が神座を去っても、私のスキルがなくなることはありません、スキルは特殊なものでもない限り、一度身についた物が自然消失するって言うことはあまり無いみたいですよ」
って教えてくれた。
そんな話を聞いてると、
「本当に雪華のスキルのおかげで、死人も出ないで済んだのおよ、本当に助かったわ」
って雪華さんのお母さんも感謝してて、
「お陰で、このプロジェクトに遅れも出なくて本当に良かった」
って、人的被害よりも、そっちかよって事を心配してたみたい。こう言う職業の人って変わり者が多いって話だから、そう言う価値観なのかも、雪華さんはそんなお母さんを見て、わかりやすく怒って、
「そんな事より、他に怪我とかしてない、もう隠してるとこない?」
ってお母さんの体をチェックしながら、
「ちょっと! 背中!!!」
って再びメディックを使ってた。
「大丈夫よ、擦り傷みたいなものだから、雪華、怒ると怖いからやめて」
ってどっちが母でどっちが子供なのかわからないってやり取りをしてた。
「本当にダンジョン通う様になって、雪華、怖くなったわよ、そんなんじゃ秋先輩にい嫌われちゃうわ」
とか言い出すけど、いやあ、最近の雪華さんなら、逆らう方が珍しいと言うか、すでにギルドでは、『上品な真希』って言われて、ほとんど二枚看板で頑張ってるから、ダンジョンウォーカーなら誰も逆らわないよ、って教えたかったけど、
「そんな事ないですよね?」
って切に呟くように言う雪華さんの笑顔に何も言えなくなる僕だよ。
そんな僕の微妙な立場を他所に、雪華さんのお母さんが、
「で、秋先輩は多月家に行く予定は立てたの?」
って聞いて来るから、
「ええ、行こうとは思ってます」
って言ったら、
「そう、じゃあ、本格的に『剣鬼様参り』に行くのね、大変ね」
って言ってた。
で、その言葉に、蒼さんとか、本当に困惑した顔してて、その蒼さん、もう狼狽えるって言ってもいいくらいで、どうしてか雪華さんが、
「母さん!」
って怒ってて、こんな時だけど面白いなあ、って思うのは本当に叱るみたいに言われたお母さんの方が本気で雪華さんを怖がってるみたい。
「もう、雪華、怒鳴らないでよ、びっくりするじゃない」
ってか細く言い返すのがやっとだった。
「まだ秋先輩はその辺の事情を知らないのよ」
って言ってから、今度は僕の方に向かって、
「ごめんなさい、秋先輩」
今度は蒼さんに向かって、
「この辺の事情はまだ説明されてないんですよね? 良かったら私から秋先輩にご説明しますか?」
っておそらく親切心から出た雪華さんの言葉に、首を振る蒼さんで、
「いえ、それには及びません、私から………………」
と言ってた蒼さんは話し出した。
「我が里で、剣鬼様が復活したのです」
ん? どう言う事だろう?
蒼さんの家って、確か本州で、ダンジョン無かった筈。『鬼』って言った???
「鬼って、あの鬼?」
って思わず聞いてしまうと、頷く蒼さん。
一瞬、虎のパンツ履いた赤いのと青いのとか想像してしまった。
確かにさ、この国には嫌って言うくらい、鬼に関する伝承とか伝説とか、昔話とか、アニメとか漫画とかあるけど、本当に鬼とかいるの?
「アニメとか漫画は関係ないと思うけど」
って小声で突っ込む葉山は無視して、
蒼さんの実家って、そんな鬼が住んでる里なんだなあ、って超がつくほど関心してしまう僕に一つの疑問が………………………。
なんだろう、僕自身、このダンジョンのある北海道に住んでるので鬼とかモンスターな事を言われても特にほとんど日常なので特にどうとも思わないけど、そこにちょっときになる言葉っていうか、僕に向かってたワードで、『お参り』って雪華さんのお母さんは言ってたような気がする。蒼さんじゃなくて僕が参るの?
鬼が復活、とかまでは良くて、退治は僕がするの? って所で疑問の暗雲が吹き出して来る。
そんな僕の腑に落ちない表情を拾われたんだろうか、雪華さんのお母さんが、
「仕方ないわよね、原因を作ったのは秋先輩なんだから」
って苦笑いしてた。というか、いつの間に雪華さんのお母さんまで僕の事を『秋先輩』って言うようになってた。まあ、いいけど、特には気にしないけど。