第272話【大混戦で諸行無常、切り捨てゴメンのブーケトス】
これ、結婚式場の雰囲気じゃないよ、どこのコロシアムって殺意の乱立、絶対に負けたくない戦いがあるって感じだよ。
驚いて見ると、春夏さんだった。
表情はいつもの春夏さんだけど、なんだろ、この威圧感。ってか未だ膨れ上がる殺気だけで相手の行動とか阻止できそう。
気持ち的には「どうしたの?」って聞きたいけど、そういう雰囲気でもないんだ。
そして、蒼さんたちですら、元来、彼女達が持ってる凶悪な必殺にして必中の殺意をダダ漏れにしてる。
僕の近くにいるのは、蒼さんと紺さんと藍さんなんだけど、
「蒼様、ここは無礼講という判断でよろしいですか?」
と藍さんに聞かれて、
「ああ、いいぞ、約定を果たしたら存分に戦おうぞ」
とか蒼さんも、なんだろう、見たこともない目の輝きをしてそんな事言ってる。
あ、今日も武器、新品なんだね、そのうちどうにかしないとなあ、ってちょっと心が痛んだ。
そして、会場はまさに緊張のピークに達している、そんな時、聖恩碑から駅前通りへ敷き詰めた赤絨毯の、俗にいう『幸せの明日』続く道を歩き終えたアモンさんとクソ野郎さんが、会場に一礼、そして、アモンさんが手にしていた、ブーケが深札幌の空に放たれた。
凄い高度。
周りのビルよりも遥かに高く、近くの通信会社の鉄塔よりも、今まさに空色した天井に届きそうに、その花束は上がった様に見えた。
まあ、アモンさん元神様だもんねまだ、こういう事できるよね。
札幌の大通りの長い空に吸い込まれそうになるブーケに、僕はどんな感情とかも特にはなく、ただため息を漏らしてしまったんだ。
そして、この瞬間に、見た事も、予想もできなかったその戦いは幕を切った。
北海道ダンジョンウォーカー女子、頂上決戦。
アモンさんが放ったブーケを奪い合うまさに骨肉の争い。
そして意外だったのは、
「ブーケが落ちる前に、最大の敵を!」
「全員でかかるよ、でないとみんな持ってかれる」
という感じで葉山と雪華さんが組んでいたこと。そして、その作戦に『秋の木葉』の蒼さん達ものっかかって所。何より女子全員がたった一人の、いつもなら恩も感謝もあるであろう真希さんに向かって行った事。
うわ、一心さん行った! 居合の15連撃。
完全に本気、もちろんそんな攻撃で倒せるわけもないこと知ってる女子達は波状攻撃を開始する。あ、左方さん、頭から斬りかかってる。追って春夏さん、下がってまた入って攻撃を繰り返す。下にはリリスさんが足を止めるための攻撃とかしてる。葉山、後方からバルカ撃ちまくってる。その弾丸を追って蒼さん迫る迫る。あの二人っていつも一緒に戦う事もあるけど、こんなに連携取れてたかなあ………?
「お、お前ら、ひ、卑怯だべ」
「『ブーケトス御免』ですよギルド長」
しれっと言って、一心さんが再び斬りかかる。
「そんな御免あるか!」
そっか、まずは最大の敵を排除してからってそんな打ち合わせがされたんだね。
以外に提案者は雪華さんと葉山の2名だったらしい。
「一応さ、これレンタルなんだけど、もう全部買取りになるからね」
っていつの間にか、裏方にいた桃さんがそんな事を言う。椅子とかね、絨毯とかねみんなHDCU(北海道ダンジョン商取引組合)の二人が手配してくれたんだけどね。もう、みんな壊れてしっちゃかめっちゃかだよ。
「請求はギルドに回しておくよ」
と瑠璃さんも来てた。
そして苦い顔の麻生さん。今にも止めに入りたいけど、入ることのできない苦渋の表情に満ちていた。まあ、普通にあれの中に入ったら大怪我じゃすまないと僕も思うよ。
そして、本来主賓のアモンさん、クソ野郎さんは、そんなホットな会場に再び一礼して、仲睦まじくって言うかクソ野郎さんちょっとこの会場のことが気になってるみたい。あダメだ抵抗虚しくアモンさんに引っ張られて、帰って行った。転移ゲートだね、あれ。混線する会場をシャットダウンするみたいにクソ野郎さんとアモンさんが入ると閉じたよ。
まあ、何にしても良かったよ。
あ、ついに真希さん倒されたみたい。
なんだろう悪魔系かドラゴン系か不定形モンスターが踏み潰されたみたなわかりやすけど聞いたことのない直接ひき肉にされてるみたいな断末魔が聞こえてきた。
意外に早い、ていうか諦めた見たい?
そして生き残った女子の勝鬨が上がってる。
それでも、女子の数はだいぶ減ってるなあ、さすが真希さんだよね。
で、これから、残ったみんな仲良くバトルロワイヤルでサドンネスかな?
本当に楽しそう。
みんな、好き勝手に力尽くで幸せを夢見てるんななあ。
こういうのを女の子らしいっていうんだよね。




