第269話【蒼さんの家にお邪魔する計画】
蒼さんの実家に行く事えお告げると、なんか、蒼さん、予想以上に妙に嬉しがってる気がするけど、気の所為だよね。
「では、取り急ぎ、手配いたします」
って、彼女にしては珍しいくらいのテンションで言うから、
「う、うん」
ってなる。
でもって、
「私も行くから」
って葉山がなんか凄い目をして僕を睨むんだけど、なんか僕、悪いことした?
「薫子も行くからね」
って追加して言い出して、「ええ? なんで私が」って言われて驚く薫子さんだけど、まあ沢山で言った方が楽しいよね、それに人数行った方ば僕が怒られる時間も減るかもしれないなんて、その時点では考えてたんだ。
ちなみに紺さんも、その紺さんに連れられて、どう言う訳か水島くんも一緒行くことになったって言うのは、また別の話ね。
で、今はそう。
結婚式の真っ最中な訳で、取り分け僕としても、やる事もないから結局こうして、色々考えてる。
あ、ちなみに、今、厳かに式の中心にいる二人、クソ野郎さんとアモンさんは、二つに分けた漿液の状態から、あっさり復活した。
復活して意識を取り戻したアモンさは、まず自分のことよりも、既に目覚めていたクソ野郎さんのチェックに余念がなかった。
「ちょっと小さくまとまってないか?」とか「ちょっと前より気が抜けてる気がする」
とか、保健室のカズちゃんや雪華さんに散々文句を言ってた。
いや、いつもそんなもんだよ、ってみんなに言われてたけど、納得するのに時間がかかってた。
そんな姿を見てたら本当にアモンさんて自分の事は二の次なんだな、って僕もみんなと一緒に笑ってしまったよ。
あ、宣誓してる。
あれ? 神父さんとかいないなあ、向かい合っって、アモンさん本人に、「生涯の愛を誓う?ちゃんとして、誓って」とか直接言われてるなあ。ってか尋問?
クソ野郎さんも、「ああ、うん、大丈夫だ」とか変な答えになってる。
こうして見ると、ヒールの所為もあるけど、アモンさんの方が身長高いんだね、だから、クソ野郎さんがアモンさんのところに嫁に行くみたいに見えるよ。
それにしても、本当にウエディングドレスのアモンさんって、輝く様に美しいな。そして、今まで見られなかった輝く様な笑顔。その感情の中身は、喜びなんだろうけど、それは実際に到達したってそんな心境なのかな?
って考えてたら、
「本当に欲しいものが手に入った時の女の喜びよ」
ってまた、葉山が言ってた。
そうなんだ。
実際、アモンさんがクソ野郎さんにツンツンしてたのって、クソ野郎さんのアモンさんに対する認識が、ずーっと『姉』認識だからで、つまりは傅く様に仕えていたのも、所謂、クソ野郎さんのその態度にそれなりに腹を立ててた訳で、所謂、喧嘩中のカップルで、女の子の方からすると、『もう口聞かないから!』状態だったわけで、アモンさん曰く、気持ちの爆発を抑えれば、もっと仲良くイチャイチャできたらしい。
致し方なく、あのツンな対応だったらしいんだ。って言うけどあれはツンではないよね、硬度的に、もっと上位な、多分、普通の人間なら当たれば死ぬくらいのツンと言うか超高密度ツンだったわけで、それにしても凄いのはクソ野郎さんで、あんな状態のアモンさんの横に普通にいられたってのも凄いし、全く気にする事なく普通に対応してたのも凄い。何より数年間放置してあんな状態で一緒に生活していたんだから、クソ野郎さんて、正にメンタルの化け物だよね。
何より、自分に向けられていた感情に何一つ気づく事なく、出会った時からあの態度と言うか、不変なのも凄いよ、なんて言うかな、もうバカなの、って言う印象を突き抜けて、神々しいところまで行ってしまってる感がある。
まあ、僕もこんな一連の事はみんなから聞いてわかった事だけどね、だって、普通に姉と弟って思ってたから、本人達がそう言うんだから間違いないよって信じてたから、実際に今のアモンさんとクソ野郎さんの状態にはちょっとしっくりしないものはある。けど、おめでとう、って気持ちの方が強いから、まあいいやになる。
「なあ、一心、一体、宝とアモンはいつからこんな感じだったんだ? 急に結婚とか私にはサッパリ分からない」
って茫然自失としながら、それでも周りに合わせて手を叩いて、隣にいる一心さんにそんな質問をしているのはD &Dの辰野さんだ。
僕、この人見てると安心するんだよね。人間性とかダンジョンウォーカーとしての資質とかそんな物じゃなくて、もっと本質的というか大事だけどどこか他人任せにしてる諸問題というか心の硬さというか、よくわからない事で、『僕だけが最後尾じゃない』って思えるんだ。
ある意味、辰野さんて僕の心の中の一つの指標なのかもしれない。
自分の位置というか、そんなものを指し示す、何を指し示しているのかは今ひとつわからないけど、でもなんだか、安心するんだ。
そして、その横にいる一心さんはそんな辰野さんに対して、まるで菩薩様の様に微笑んでいる。
まあ、そっちはいいんだ。