第267話【あの日の攻防の顛末】
だから、こっから先は僕一人で良いよ、ありがとね、って言って下がってもらおうとするんだけど、二人ともガンとして下がらず、
「いや、もう本当に良いよ」って言えばいうほど、意地になってるみたいで、
「私は大丈夫、蒼さん、下がっても良いわよ」
と葉山。
すると、今度は、
「心配無用、葉山殿の方が下がるが良かろう」
と互いに短い時間見つめあって、すぐに視線を外した。
一瞬、火花が飛んだように見えたのは気のせい?
互いに意地になってるのか、そこには絶対に譲らないという確実な意地が垣間見えた。
いつの間にそんな感じの人間関係になっていたのか、ちょと分かたないけど、まあ実力的に言えば、ほとんど拮抗する腕前だしね、その辺は仕方ないかって思うけど、フラフラしながら、前に立たれるのも邪魔なんだけどなあ。とは思う。
ほんと、どうしよう、この二人って考えていた頃、
「待たせたな兄!」
って文字通り降って湧いて、僕の肩に跨る妹。
「え? なんで?」
普通に驚くも、
「私が連れてきた、すまん、ゲートの類は使えず、徒歩での移動になって遅れた」
と薫子さんが息も切れ切れに言う。ってかなんで妹を??????
って疑問は、次の言葉というか、妹の行動で理解できた。
妹は、そのまま例のスライムに近づいて、
腕を巻き取られるも、その触手に触れて、一言。
「イジェクト!」
と言った。
ああ、そうか、そうだね、その方法があったね。なんだ、そうか、そうなんだ。
かつては僕を排除してギルドの更衣室に飛ばした三柱神だけが持つ『奇跡』の一つ、イジェクト。
さらには、葉山の体から葉山以外の部位を弾き出して綺麗に区分けしてくれたイジェクト。
なるほど、そうだね、こっちの方が簡単で、しかも安全だったね。
二つに分類されて、綺麗に黄金の容器に分かれて入ったそのかつてのスライムを見て、ほっとしたのか、それともたまたま限界だったのか、葉山と蒼さんはその場にヘナヘナと座り込んでしまった。瑠璃さんは「あはは」って笑ってるし、桃さんも「こんな便利な方法があったんだね」とか言ってるし、ともかく、あの時点で、西木田くんが二つに分けたって事で、もうすでに勝負はついてたって事だったんだ。
なんか、凄く、どっと疲れが襲ってきた。
そうだよ、初めから妹呼んでイジェクトして貰えば良かったんだよ、薫子さんもそれに気が付いたらそう言って欲しかったよ、だったら、僕らは二度と混ざり合わないように細心の注意を払いながら上手く足止めしてるだけで済んだんだ。
なんかだんだん腹立ってきた。
必死に活の良いスライムを飛んで跳ねて、捌かなくても良かったじゃん。
すると、今度は葉山が、
「だよね、真壁だから普通にできると思って付き合っちゃったよ」
って恥ずかしそうに笑ってる。
そして、春夏さんはいつものように微笑んでる。
じゃあ、まあ、良いか、って思う僕だけど、納得の落とし所を探すのに時間はかかりそうな感じだったよ。
そして、重大なことに気がついた。
あれ? 三柱神の奇跡って事は?
「もしかして、イジェクトって角田さん使えた?」
って尋ねようとすると、こっちを不自然に避けた、明らかに違和感のある顔の向きをしてる角田さんがいた。あれ、多分、絶対にこっち向かないつもりって感情は僕でもわかるよ。
そっか、できるんだな、イジェクト。
なんでも分かるゼクト様も気がつかない事もあるんだね。
で、ちょっと離れた蒼さんが、そのまま座り込んでたから、
「ごめんね、蒼さん、変な攻防につき合わせちゃって」
って素直に言ったら、一瞬遅れて返事して、
「い、いえ、構いません、私はどこまでもお屋形様について行く所存ですので」
って言っていたんだけど、意識はちょっと僕の方には無くて、蒼さん、今まで使ってた短刀を隠すように懐に仕舞うんだ。