第264話【金本位制と管理通貨制度に縛られる現代錬金術師】
「今、さ、剣から何らかの答えを受け取ったって事?」
って聞かれる。
うーん、違うなあ。
「いや、どちらかかというと、問いかけは僕の方からだよ」
「え? わからなかった、どんな風に? どう問いかけたの?」
僕は、ちょっと時間もないから、簡単に、
「速度と切れ味の限界をあげてもらった、できるどうか、調整してくれたから、こういうのって早すぎてもダメじゃん、ちょうど良いところで、OK出したんだよ」
すると、葉山は、
「どうやって剣の意識を………………、ごめん、後でいい、時間取らせた」
って言いながら自分のマテリアルソードを見つめてブツブツ言ってた。
いや、それは特には、と思いつつ、今は急がないといけない方に意識を再び向ける。
問題は、器だよなあ。切り分けた後のあの二つのスライムが再び混ざり合わない様に隔てて置く為の器。
「それは私が用意しよう」
そう言って、瑠璃さん片膝ついて、そっと床に手を置いて、そのままその手をあげて立ち上がると、そこには金色の巨大な盥が二つ出現する。
「え? 錬金術師っていうのは比喩じゃなかったんですか?」
「容器程度でいいなら瑠璃は何でも作るよ、簡単な剣とか武器もね」
ってエッヘン、って感じでなぜか自慢気な桃さんが言ってる。
瑠璃さんガチの錬金術師だった、スキルの上でも。
ってか、本当に何人かで行水できそうな大きなタライ、ってことは金色っての比喩じゃなくてマジに金? この大きさってことは、一体、どのくらいの金額なんだろう、とか下世話な事考えてしまったよ。
「これが一番簡単に生成できるんだよ、すまない、樹脂製とかの方か良かっただろうか?」
と瑠璃さんに言われるけど、
「確かに耐蝕なら金ですね、秋さん、こりゃあ嬉しい誤算だ、用意されたスキルに錬金術なんてなかっただろうに、これも又、合成調整されたスキルって訳か」
って角田さんが言ってる、ちょっと何言ってるかわからないけど、雰囲気的には合格点出てるみたいだから、心強い事この上無い。
でも、ちょっと余計な事を考えてしまった、で聞いてしまう。
「瑠璃さんって、商売とかするんなら、まず、どこでもいつでも金造れるなら、それを売った方がはるかにお金になるんじゃないですか?」
って言ったら、横の葉山も大いに納得してた。
だって、元手って言うの、そう言うのいらないじゃん。なら、無限に現金を生み続けるみたいなものじゃん。
そうしたら、瑠璃さんは言うんんだ。
「金の生産というのは流石にね………」
苦笑いの瑠璃さんだけど、何かまずい事でもあるんだろうか?
だって金だよ。それを生産できるのはすごいことで便利な事ではなんだろうか?
ちょっと、腑に落ちない顔をしてる僕に、
「金本位制と管理通貨制度というのがあってね、ちょっと前まで世界の経済の基軸、今でもその制度を使っている国もあるから未だ世界経済の骨幹とも言ってもいい、その絶対量が厳しく管理されている金をノーリスクで生産し続けると言うのはいささか世界の財界に喧嘩………いや戦争を仕掛けてる等しいからね、特に今世界は、企業体が大きな力を占めてるからね、ここ来ての大きな変動なんて誰も望んでいないんだよ、国家規模で粛清されかねないよ」
そう言って瑠璃さんは笑った。
そうなんだ。金ていくら造れるからって、好き勝手に造っても良いってもんでもないんだね、なんか世界というか経済って難しいね。
「じゃあさ、金以外の金属なら良いんじゃないのかな?」
と言って見ると、
「いや、そこは錬金術なので、金以外の生成は難しくてね、いやすまない、本音ベースで言うと、金以外は大したものは作れない、シャツくらいだな」
と瑠璃さんは言った。
そっか、錬金だもんね、鉄だったら、錬鉄になっちゃうもんね。なるほど、納得だ。
「だからすまない、あまり金を錬成するのはしたくなくてね、これも、用事が済んだら、消してしまうよ、すまないな、狂王」
と瑠璃さん、まあそうだよね、余計な金とか増やして世界を敵に回すわけにはいかないもんね、結構無理させてるなあ、って思うから、
「ごめんね」
って謝っておいたらさ、
「いや、そこは狂王がさ、世界経済から『俺が守る』って言えば瑠璃だって考えるよ、ねえ?」
とか桃さんかまた、好き勝手な事言い出す。
苦笑いの瑠璃さんだよ。