第261話【最終段階 2液性スライム】
咆哮が天井を突き破る様に放たれた瞬間に、その赤い狐は姿を溶かした。
ものすごいハウリング。
耳がどうかなりそう。
そして、これが、地上を殲滅する形になった本気の姿。
「できることはやっておいた、役に立つといいんだけどな」
と西木田くんは言う。
いよいよ、ここかから本番っていうか気合い入れてかないと。
そんな中、一番、その方向に驚いていたのは他ならない今回の事件を起こした梓さん自身だった。
もう、腰が抜けてる見たい。立っていられない様子を瑠璃さんが支えてる。
「いかがいたしますか、お屋形様」
蒼さんが訪ねて来る。
本当なら、この変化、終わる前になんとかしないとって思うんだけど、正直今の現状手の出しようが無い。というか対策が無い。
仕方なく後手として攻め方を考えてみようと思うけど、その前に、
「西木田くん、今、わかってることをお願い」
言い方が端的すぎて、ちょっと伝わらないかなあ、って心配するも、
「俺ができたのは混ざっていた所を分けただけだ、今、あいつの体の中には混ざり様も無い二種類の液体が、それでも混ざれろうとして絡みあってる状態だ」
そうか、じゃあ最悪なところは通り過ぎってって感じなんだね。
「お前の意思はあっちに伝わってたぞ、だからこそこんな状態なんだと思う」
「じゃあ、会話とか出来る?」
すると西木田くんは首を横に振って、
「もう無理だ、俺は弾かれてしまったから、彼らの声を聞く事は出来ない」
と言った。
もちろん、もう十分だよ、二つを分けてくれたんなら、後はコッチでなんとかするよ。
僕はまるで皮を脱ぎ捨てる様に、赤い毛皮を破り、裂けた背から飛び出すその姿を目の当たりにした。
「すげえ、ここまでやるなんて、想像もしてなかった、一般のダンジョンウォーカーがこうなった俺達にすら対応できてるなんてな」
と角田さんは感心する様に言った。
現れてたのは巨大なスライム。
つまりは不定形物体。
その姿は、透明な部分と朱の部分で綺麗なツートンカラーになっていて、まるで水と油が攪拌しきれない様に混ざりあえないその物の姿だった。
「なんか、綺麗」
ボソッと葉山が言う。まあ確かに、こう言う芸術品て言われれば、札幌駅とか地下街とかあったら普通に見てそう。
しかし………………………。
「これを綺麗に分けるってのも骨が折れそうだな」
と瑠璃さんが言った。
本当にそうなんだよ、全体的には透明の中に朱色が混ざってるってか、入ってる感じなんだけど、言い方悪いけど、透明なゼリーの中に、黒カビ生えて張り巡ってる感じかな?
朱色は透明に届きたくて伸びるけど、透明がそうはそうはさせない様に伸びて抵抗してる感じ、でもってこの二色は絶対に混ざらないってのはわかる。だからと言って、重さなんかでは綺麗に分かれていかない感じなんだ。
そんな姿に、
「これが、三柱神の正体ってことなの?」
って思わず角田さんに聞いてしまうんだけど、
「いやあ、俺もどうなるかまでは想像はつかなかったですよ、少なくとも言える事は、対秋さんと対工藤の為にこんな形に変化したって事ですかね」
そびえ立つそのマーブルなスライムみたいなその姿に、角田さんも感心するばかりだった。
そんな僕に、
「お屋形様………」
と声をかけるのは蒼さんだった。
「どうしたの? 何か気が付いた?」
蒼さんは燻げな顔をして、
「あの物、先ほどの赤い狐の様な姿から出て来たにしては大きすぎると思いませんか?」
そう言われると………………………。
確かに………………。
僕は、角田さんと、それを伝えて来た蒼さんと一緒に大きく立ち上がる(?)マーブルなスライムを見た。
本当にでかい。ってか内容物と容器の関係で行くと明らかにマッチしない。
それは、出してみたら意外に大きかった、とか、コンパクトになっていた、なんてそんな感覚のレベルじゃなくて、スリムなお姉さんが服脱いだら、同じ身長のゴリラになったってくらい違う。
春夏さんとか、葉山や蒼さんが服を抜いたら北藤さんになってしまったってくらいのインパクトはある。
「それはヤダね」
って葉山も言ってた。