第255話【慈愛の女神 アモン】
ギルドに対抗するべく立ち上げた人も多く参加していて、敵の敵は味方、みたいな感覚てクソ野郎さんを助けていたって話らしい。
いろんな力関係が働いて、バカ強い童子が完全に放し飼いにされてる状態だったんだって。
で、一応の年齢制限を設定しているギルドからしたら、このまま野放しにしておくこともできないと、あれこれと手段を尽くしていたんだけど、結局捕まらず、このまま放置かって誰もが諦めた頃、当時のギルド長が、「あいつ、今年から小学校だべ、学校通わせないとまずいべさ!」と奮起。
ダンジョンの適応年齢に下限ってのはないけど上限はキッチリ決まってるので、このままこのクソガキ、絶対に社会不適合者になると、そう思ったギルド長は本格的に………? あれ? この当時のギルド長って真希さんじゃない?
いや、だって年齢的に合わないよなあ、あれ? 真希さんて一体何歳なんだ?
あれ?
「そこは流してください、同一人物でもいいですけど、年齢の事は言わないであげてください」
と角田さんにしては珍しく真摯に言ってくるから、「うん」ってなる。
で、再び、クソガキ大捜索網を展開。
ギルドはこの時、ダンジョン内、特に深階層に入場制限を設けての本格的な探索となった。一回、D &Dさえも追い出して、完全に中にいるのはギルドの構成員とクソガキ、そしてダンジョンのモンスターになったらしい。
ここで、何が起こったかは誰も知らないんだけど、そこで今の形、つまり最終的にはアモンさんが出てきて、そのクソガキであるクソ野郎さんを確保したらしい。とう言うか、その時、一体アモンさんとクソ野郎さんの間で何があったかわからないけど、アモンさんは、一度、このクソ野郎さん、当時クソガキを育てるために、ダンジョンを出たって話らしい。
三柱神の一角が崩れるって、運営側にすればそんな話なんだけど、その当時、アモンさんどころか、ゼクト様である角田さんも、似たタイミングでダンジョン内にはいなかったらしくて、何を今更って感じで、自分の役割なんて気にしないで、アモンさんはその慈愛の心を持って、クソ野郎さんのお母さんしたらしい。
まあ、そうだね、普通に剣一本で深階層までたどり着ける子供なんて、普通の施設じゃ荷が重いもんね。
アモンさんくらいがちょうどいいかもね、ってそんな話を聞いている僕ですらそう思える。
しかも、当時のクソ野郎さん、言葉も拙くぶっきらぼうで、コミュ障たんだって。だから当然、常識も知らない。だから襲われれば戦うし、追えば逃げるってのは本能としてやってきただけのことかもしれない、まあ、普通の子供ならどっかで倒れるか捕まるかはするだろうけど、ギルド全体を敵に回して逃げ切れるのってのは、今の僕も自信はないよ。
でもって、そのアモンさんとは言うと、甲斐甲斐しくクソ野郎さんを今の状態まで育て上げたって事らしい。
ちゃんとご飯作って、日中は小学校に送って言って、笑ってしまうのが、保護者としての職業欄に『三柱神』って書いていたんだって。
認可する札幌市もどうかしてるけど、本当に真面目にお母さんしてたんだなあ、って思うと、アモンさんの、厳しい口調にどこか優しさみたいなものをなんとなく感じてしまうのは決して気のせいではないと思うんだ。
当時のクソ野郎さん、金銭なんて物も知らなくて、箸もスプーンも使えない状態で、お風呂も入った事なかったって話らしいんだ。
だから当時は一緒にお風呂に入っていたんだなあ、って思うとなんかほっこりしてくるよ。
「いや、あいつら、今でも二人で風呂とか入りますよ」
マジ? いつまでアモンさんに甘えてるんだよ、ちょっと過保護すぎない?
「アモンは過保護ですよ、多分、あのクソ野郎の為になら世界を敵に回せるくらいは軽くやるヤツです」
と角田さんは言うんだ。
だから、絶対に離れない。
常に寄り添う。
でも、本気で求めない。
求めてしまうと、今の状態になってしまうから、あんな態度だったんだ。
そう考えると、ちょっと切なくなってしまう。
すると、
「まあ、そう捉えてもいいんですが、それ、ちょっと違うんですよ」
と角田さん。
「その話は私も聞いています」
と薫子さんまで言っていた。
とう言うか、ある程度、ギルドでもクソ野郎さんと対峙しそうなくらいの立場の人間には知らされている事実があるらしい。