第254話【クソガキ→クソ野郎への進化、変性】
西木田くんが、赤い九尾に潜り込んでしばらく時間が経っていた。
心配そうに西木田くんの体を抱く左方さん、それを羨ましそうに見ている葉山。で、その頭の方で警戒する蒼さんと、薫子さん。本当に真面目に警戒してる。
「大丈夫だ、あの小僧、完全に中に入って抑えてるみたいだな」
と感心した様に角田さんは言う。
「2つの混ざり行く漿液に異物が混ざったんだ、さすがにこれには気付くだろうさ、ささっと頭を冷やして出て来いって言う話ですよ」
と角田さんはそう続けて呟いた。
そしてその話を受けて、薫子さんは剣を収めてこっちに来た。
「ゼクト様、私には今回の事件、この出来事が理解できません、お手数ですが、こんな私にもわかる様に説明願えませんか?」
と薫子さんは自分の神様に懇願する。
「ともすれば、私とてこの出来事、他人事ではないのでしょう?」
「いや、薫子の場合は大丈夫だ、安定しているしな、俺もそう言うのはもうないんだ」
と角田さんは言う。
「アモンの場合はレアケースなんだよ」
と付け足した。
ここかからは、神様仏様ゼクト様、つまり角田さんの話。
「俺たち、三柱神は、この世界、つまりダンジョン側でいう所の、予備装置みたいなもんでな、実際はその力も義務も現在は飲み込んでしまっているから、そんな心配はないんだが、アモンは別だ、宝を所持するためなら、あいつは躊躇いなく、このダンジョンどころか世界だって平気で敵に回すぞ」
と言ってそこから語り出した。
結構長い話だけど、要約すると、あのクソ野郎さんて、アモンさんに育てられてたらしいんだ。本当にガチで。
詳しくは聞かなかったけど、かつて、クソ野郎さんは、このダンジョンに捨てられた子供だったんだって。だから、土岐とか左方さんに抱かれてる西木田くんと一緒って事だね。だからちょっと後になって聞いたけど、カズちゃん事、ギルドの保健医師である斎藤和子さんもこの件には詳しかった。
で、普通なら、土岐とか同じ様に、『子ども園』みたいな札幌の組織に引き取られていくんだけど、クソ野郎さんの凄いところは、当時、園児くらいの年齢にもかかわらす一人でこの北海道ダンジョンに潜って行ってしまったらしい。
いやあ、普通は誰かが声かけてくれるか、助けてくれるかを待つじゃない、少なくとも土岐とかはその場合、あいつの場合、ダンジョンの入り口で待っていた訳だけど、クソ野郎さんはそうはしなかったんだ。
どんどん深くに潜って行ったんだって。
もちろん、当時のギルドに捕まって、本部に連れてこられたらしいんだけど、そのままギルドから、当時のギルドの装備、ロングソードを持ち出して脱出。
ここで普通ならダンジョンから出るはずも、クソ野郎さんって、根っからのひねくれ者なのか、それとも生まれついてのダンジョンウォーカーなのか、ともかく深部を目指して潜り続けたらしいんだ。
当時4歳くらいだよ。
どんだけ気が強いんだよって話だよ。
で、ギルドの方は、大騒ぎになって、どうも記録では自力で浅階層のジョージを突破して、中階層に降り立って記録が残ってて、上へ下への大騒ぎになって、当時初めてダンジョンを封鎖して大捜索事件へと発展して行ったんだって、だから当時を知る人に言わせると、クソ野郎さんて今でも有名で、「ああ、あのクソガキ、クソ野郎になったのか?」っていう変性が行われて、現在の呼び名であるクソ野郎はそうして定着して行ったらしい。
以前、八瀬さんが自慢げに言ってからどんだけ凄い秘密なんだよ、って思ってたけど、逆に言うと知らない人はいないくらいの有名人だったって事だよね。
近々のダンジョンウォーカーにとっては知らないから、今一つ謎っぽくて、ミステリアスな知らない恐怖かもあったけど、知ってしまえば、つまりは、今クソ野郎で昔クソガキだっててわかりやすい人なんだね、ダンジョンにとって、多角的に全方位的に。
でもって、凄いのは当時のギルド所有の配布武器で、一応はロングソードらしいけど、なんでもあのカシナートの元になってるくらいの剣らしくて、小さい分、微妙な変化でその性能は失われるらしくて、同型でありながら、今、西木田くんとか水島くんとかが使っているものとは全くの別物って言っても差し支えがないらしいんだ。
言い換えると今のギルドの武器ってよく言っても普通な感じでそうでクソ野郎さんがいまだに所持してる剣よりは強くないいて言うか、そうでもないみたい。
で、その武器を持ったクソ野郎さんは、ギルドの大捜索網を掻い潜って、中階層のジョージも突破。そのまま深階層にたどり着いていたらしい。
当時からバカ強くて、しかも逃げ足は早かったんだね。
今と一滴も変わらないのが凄いんだか凄くないんだかってきはするけど、そこでも、網の目の様に張り巡らされた捜査網を掻い潜って、時として装備を、時として食べ物を、また、そんな幼いクソ野郎さんに一定の支援者も出てきて、深階層でも当時まだD &Dも立ち上げたばかりの頃らしくて、ご飯やお風呂や、つまり生活の拠点を提供していた人も居たんだって。
その頃って、ギルドと深階層のダンジョンウォーカーって、それほど仲も良くなくて、当時のD &Dも。