第253話【愛は狂気】
「まあ、あれです、ほら秋さん、アモンとクソ野郎は、神と人との違いはありますが、基本的には異性同士ということです」
もう一回、考えてみるけど今ひつピンと来ない。
「いや、だからさ、どういうことなのさ?」
再びしつこく食い下がる、ちゃんとしたことを答えてもらわないと、ともかく、僕らだって他人事ってか、対応してるわけだしね。
「だから、わかるでしょ? つまり、アモンが女でクソ野郎が男なんですよ」
もう一回、考えてみるけど未だひとつピンと来ない。
「いや、だからさ!、どういうことなのさ?!」
「ああ!もういいわよ、どうせわかんないでしょ? じゃあ、聞くなって話よ」
急に葉山が割って入ってくる。僕を押しのけて入ってくる。
「でも、ゼクト様、私にはとてもそういう雰囲気には見えませんでしたが?」
今度は葉山が質問した。
「そういう風にやっていたんだよ」
そういう風ってどういう風?
「アモンは、気をぬくとクソ野郎を取り込んでしまうくらい、常にそのような状態なんです、逆に訪ねますが、あの二人が一回でも一人一人でいる時がありましたか?」
言われてみるといつも出会う時は、二人だったね。でも、それって、てっきり姉弟だからってのもあるかなあ、って思ってたから、特に不思議にも思わなかったんだ。
つまり、アモンさんってクソ野郎さんの姉ではないって事なのかな?
「じゃあ、なんなのさ?」
「察してください」
と角田さんが言った。
「つまり、悪魔の花嫁さんに対する、土岐さん、西木田くんに対する左方さん、辰野さんに対しての一心さん、私と真壁みたいな関係よ」
あれ? 途中までよかったのに最後のでわからなくなった。ちょっと惜しいとこまで行っててのに………。
「最後のは違います、そこには春夏嬢ちゃんを入れてください」
って角田さんが言うと、
「いいでしょ、ねえ、真壁、私でもいいよね」
って言ってくる。いや、よかーないよ。なるほど、春夏さんでしっくり来る。
つまりは大切な人って事だよ、約束な人、葉山は僕が勝手にした事だからちょっと違う。ああ、納得だ、僕も春夏さんを失うってなったら多分、正気じゃいられないからね、特に今はその時じゃない。
「いいわよ、絶対に私もそうなってみせるからね、覚えてなさい、真壁!」
って恨めしい言葉を叩きつける葉山だけど、少なくとも少しでも好意を抱いている人間に言うべき言葉じゃないよね。まあ葉山の方はいいや。
ともかく、つまりは梓さんは、そんなアモンさんとクソ野郎さんを引き裂くようなことをしたってことなんだ。
なるほどね。
僕は尋ねる。
「一体、どうやってアモンさんとクソ野郎さんの間を引き裂いたの?」
すると、梓さんは、桃さんにしがみついている状態だったけど、何やら急に強気になって、
「簡単だったぞ!」
っと言ってから、
梓さん、自身のお腹を摩りながら、
「あなたとの子供、もう3ヶ月なの」
と言っただけだ。
「いやいや、それは………」
思わず呟いてしまって、いやだってありえないでしょ?
僕も人の事は言えないけどさ、あのクソ野郎さんだよ、幾ら何でもないでしょ、それにアモンさんだって、常に寄り添ってたはずだし、ないよねえ、って言おうとすると、
「あるな」
と角田さんは言うんだ。あのアモンさんをよく知るであろう角田さんはそう言うんだ。
「あるの?」
って思わず聞いてしまった僕だけど、
「前に、真希に奪われるって勘違いして、焦ったアモンは、この獣になりかけましたからね、ともかくクソ野郎の所持に関する事ならあいつは平常心で狂いますよ」
と言った。
そっか、平常なのに狂うんだ。
「事、クソ野郎のことについてはアモンの場合、理屈じゃないんです、アモンにとって、クソ野郎の敵は全部敵で、味方は無条件に味方なんです」
そして続けて、
「『姉』に固定されて、落ち着いたと思っていたが、やっぱりダメだったか」
と言ってから、
「アモンの慈愛は本来ダンジョンの全てに向けられる筈が、全部あのクソ野郎に向かってますからね、完全固着したああなった状態で引き剥がすってのも難しいかもしれませんよ、方法があるって方が驚きです、ああなったらアモン、離れる気なんてないでしょうから」
ああ、そうかだから僕アモンさんを怖い人(神)って思っていたんだ。だって、慈愛と破壊って二つ名の、破壊の方しか感じられなかったから、クソ野郎さんに対してはそうなんだね。納得。
ともかく誤解を解かないと、こんな馬鹿らしい事で、北海道が、世界のピンチなんて、とても言えないし、過去の事があるから真希さん積極的に介入してこなかったのか……………………。
もう、ここは西木田くんに任せるしかないけど、方法はあるみたいだけど、行きすぎた愛って、世界を滅ぼすんだなあ、ってちょっと思ってしまって、本気でなんとかしないとって同時に思う僕だったよ。
痴話喧嘩が、しかも誤解というか狂言が今、世界を滅ぼそうとしてる。
「愛って狂気だね」
って桃さんががしみじみと言うと、
「いやいや、狂気だから愛なんだよ」
と言って瑠璃さんが微笑んでいた。
違いのわからない僕としては、ただ何も言わずに、平常にして納得したような顔をしているのが精一杯だったんだ。