第251話【形は整えた、再度行くよ】
あの当時の僕なら、多分、武器の優位性において、そんなことを全く考えてなかったから、多分、その後6分で負けていたと思う。あの頃はさ、全然僕、この剣を使いこなせてなかったし、ここまで仲良くもなかった、その上、クソ野郎さんが自在に操るバーゲストの性能もわかっていなかった。
だから、最後にカッコよく雪華さんを守ったって思って余計なことして思いっ切り食らったんだと思う。
正面から受けた僕は本来なら胴体を串刺しにされていたはずだったんだ。
しかし、あの時、クソ野郎さんは鎖の操作で、ギリ僕からバーゲストを外そうとしたんだ。
で、それも躱しきれずに僕は腕に受けてちぎれかけたってのが当時の内容で、薫子さんは今でもそのことについて罪を背負ってる感じだけど、あれは決して薫子さんの所為なんかじゃないんだ。
全部僕が至らなかったせいで、僕自身が、ダンジョンを、ダンジョンウォーカーを軽く見ていた証拠なんだよ。
突きつけられた感じ。
だからこそ、かな、今ならもっと上手くやれる。
クソ野郎さんとも楽しめる。
これは絶対に母さんとやりあう以上に楽しめる。そもそも種類が違う。
葉山とはダメ、もちろん春夏さんや蒼さんでも違うんだ。
もしかしたら、個の強さで行けば、クソ野郎さんよりも彼女の方が上かもしれない。
でも、そんなことじゃないんだ。
正直今でもまたやりたい。
あの時の腹の底から吹き上がって来るみたいな、愉快で怖くて、それでいて後とか先とか考えられない感情。僕はその正体を未だ知らない。だからもっと上手くやろうって思ってた。
全く遠慮のいらない遊び相手。
なんで、ここまで強いんだろ?
位置どりがいいのかな? 足かな、いや腕もいい。
多分、能力や技術だけじゃない、このダンジョンを知り尽くした戦いのできる人なんだって、今では思う。きっと隅々まで歩いた人。僕の先輩のダンジョンウォーカー。
本当にあの時は踊ってるみたいに楽しめた。
間違いなく、大怪我するやりとりだけど、確かに命を狙った一撃同士だったけど、本当にすごい楽しかった。
何年も母さんと一緒に打ち合いしたけど、あの気持ちは出ては来なかった。
あれが初めてだったんだ。
必死になることはあっても、あの心のそこから湧き上がってくる様な高揚感というか、純粋に笑いはなかった。
あ、そうか、今、僕はこのクソ野郎さんの、アモンさんとの成れの果てを見て、戦って、イラッとしてるんだ。
楽しくないんだ。
そういうことか。
今僕は、楽しみを奪われたって考えてる。
「ごめんね、彼女達も必死なんだ」
そう桃さんが言った。
僕のこんなダダ漏れの感情はいつの間にか、この場に溢れていたみたいだった。
その桃さんの横では梓さんが、桃さんにしがみついてる。僕の方をチラッと見て、そして、震えていた。
「凄まじいものだな、狂王の怒りと言うやつか」
と瑠璃さんが言ってる。
あ、ごめん、ちょっと高ぶっていたかもしれないな、そんなつもりじゃなかったんだよ。
「いいのよ、怒って、可哀想だけど、それだけの事をしたんだから、真壁の怒りは正当よ」
って葉山は言ってくれる。
「自分の為に、人を犠牲にしたんですから、いかに秋様がこの自体を抑えられるからと言っても、その怒りは当然ですよ」
「たまにはガツンと言えばいいんですよ秋さん」
って桃井くんも、角田さんもみんな僕の見方みたい。嬉しいけど、複雑かな?
だって、これ自体僕の都合で、まるで私怨みたいなものだからね。
「そうだな、こいつら異造子ってさ、ちょっと甘やかしすぎかもしれない、俺のいた施設なら、もっと人の顔色を見て上手くやろうって思う厳しさを知る強かなガキばっかだぞ」
って西木田くんもそんな事を言い出すから驚く。
「翔………………………」
その西木田くんを包み込むように抱く左方さんは、少し寂し王に、西木田くんの名前を呟いた。
「俺も含めてって意味だよ、別に不幸でも悲しくもねーよ」
って、そんな左方さんに、ちょっと沈んだ顔してるからかな、強くてそれでいて明るい口調で言った。
そして、
「じゃあ、再チャレンジだ、真壁、始めようぜ」
って西木田くん合図で、再び僕は赤い九尾に最接近。
「鍵を開けた所を視認させてくれ、真壁、距離は関係ない!」
西木田くんの言葉に、
「露払いはお任せください」
って言って、蒼さんが挑む。先んじて、飛んで一撃を入れるものの、これ以上ないって形なのに、持っていた短刀の刃の先が折れる。
通常の武器なら斬撃を耐えるどころか、へし折るのかよ。
でも、蒼さんそれが目的だったみたいで、「油断したな!」って言ってから、背から、あれ、葉山のマテリアルブレードじゃん。
赤い九尾の目に見えるように、一度視線の上で踊らせて、大きい振りで頭に振り下ろした。