第250話【僕にとってのクソ野郎さん、アモンさん】
今までなら、僕は春夏さんの件やらダンジョンの事、僕が絡んでる事件とかに、こう言った形で介在されるのって、基本、迷惑って思ってたんだけどなあ、不思議と葉山は不快にならないんだ。
いや、もちろん、それはさ、こっちから言いたい事もあるけど、その上でも、なんだろ、身内に一方的に味方されてるって感じかな。
もう、何がなんでも僕の味方、良いも悪いもなくて、そんな常識なんて度外視してまで僕を味方するみたいな感じ。
「何よ」
って、葉山に言われる。僕はいつの間にか葉山を見ていたみたい。
「いや、別に」
そう言いながら、ちょっとわかった。
ほんと、なんて目をして僕を見てるんだよ、葉山………。
この子、僕自身がそこに行って自ら傷つくような、そんな僕も嫌いっていうか、イヤなんだな。
そしたらさ、葉山が言うんだ。
「お願いだから、私が助けられる所にいてよ」
うん、まあ、そうだね。
って、確約も証明もできない適当な返事になってしまう僕だよ。
「真壁、イチャイチャしてる所悪いが、急いだ方がいいんじゃ無いか?」
って、西木田くんに言われてしまう。いやいやいや、確かにその通りだけど、まっったく反論の余地は無いけど、未だ、後ろから左方さんに抱かれる君には言われてくないからね。
「秋さん、そろそろ真面目にやりますよ」
って角田さんと、
「奥さんですから、こんな時だからこそ秋様としては愛情を確かめ逢いたいですよ」
とか、桃井くんまで言って来る。
桃さんもヒューヒュー煩いし。
まあ、いいよ、じゃあやるよ。
僕はその場から逃げる様に離脱する。
もう付き合いきれないとか、恥ずかしいからじゃないからね、やる事やらないとクソ野郎さんもアモンさんも助からない。それを自覚してるからだよ。
突きつけ合う、僕らの狐の鼻と鼻。
この距離が嫌いみたい。一瞬でまた離される。
ひとまず僕は追う。
ここまで近づいて見る、その赤い九尾の姿とその毛並みは、本当に綺麗だった。
まあ、正体があのアモンさんと、クソ野郎さんだからね、見た目の優雅さと言うか優美さで、この姿は納得が行くんだよ。
アモンさん、普通に美人だし、クソ野郎さんも性格や態度はともかく、見た目にはカッコいいしね。真希さんの話によると、僕みたいに病的なファンはいないけど、ダンジョンではあらゆる意味で目立ってるから、二人ともども結構な数のファンみたいな追っかけはいるらしいんだ。ん? 病的?? まあいいや。
じゃあ、次の段階へ。
一陣を意識して僕は迅速に赤い九尾に迫る。
鈍いな。
おっと、また光のブレス、一旦下がる。距離によってその効果が低くなるみたい。と言うかやっぱりダンジョンだから抑えられてる感じなかなあ。思わず、春香さんを見ると、ちょっと心配そうに、僕だけでなくもっと全体的を見ている。
それにしても接近戦嫌うなあ、クソ野郎さんとは大違いだ。下がる僕と入れ替わるように蒼さんと薫子さんが上がる。
ちょっと体制を立て直す。だから助かる、ちょっと待ってて。
さて、どこから入る???? ひとまず攻めの一手を考えながら、ふと思い出してしまう。
あの浅階層の出来事。
クソ野郎さんと、一度だけやりあった事がある。
その時の速度に比べたらあくびが出てしまうくらいの速度で、こっちが一方的に迫れる速度だ。あの時は本当に楽しかったなあ。
僕は、僕より強い人を知ってる。
今も尚、どうあがいても、頑張っても、多分、春夏さんや葉山、そこに蒼さんを加えても勝てない相手を知ってる。多分、僕の中の存在能力とか、秘められたスキルを使っても、多分、勝てない。
て言うか、勝つと言う僕自身の姿が想像できない。
僕の中にあって、僕の指標で、絶対的存在、つまりそれが母さんなんだ。
だから、その母さんによって僕の中に付随された技術がさ、このダンジョンで十分通用するって、そう思って、なんだ楽勝じゃんって、一瞬思い始めた所に現れてくれたのが、このクソ野郎さんとアモンさんなんだ。
ダンジョンの中をとても上手に歩いている、多分、僕の先を歩いている、初めてあった時にそんな印象を見た気がする。
多分、僕のこの戦う技術って、自分に来る負荷を取り除く為にある、だから、戦って勝って、やったー、って思うことはあっても、葉山を救えた時に喜びあっても、例えばとても仲のいいこの剣を持っている時ですら、あんな気持ちになるなんて思わなかった。
刃で、食らって食らわしたら、死ぬ様うな一撃を撃ち合いながら、僕はあの時、あの浅階層の事件で、クソ野郎さんに提案された5分の戦いが、とても楽しかったんだ。
あの時はさ、なんで5分なんだろう?って思ったけど、今ならわかる。