第249話【超高等解除テク、なお値段はプライスレス」】
「今の措置ってさ、鍵師の仕事として私たちが頼んだらどのくらいの請求額なのかな?」
って桃さんが呟くと、
「さあ、サービスとしては彼の言い値だろ、1千万くらいかな? それ以上でもいいかもしれない」
って瑠璃さんの冷静な分析に、
「い、いや、アッギーが出張ってくるような世界のピンチに金は取らねーよ」
って吹き飛び終わって、上半身を起こしたツギさんが言ってた。
「そうだな、売る相手がいなくなっては、高いも安いもないからな、いい仕事だ、プライスレスか………」
って変なところです納得してる瑠璃さんだけど、多分、僕、彼女達のこんな思考こそ、きっと最後まで理解はできないだろうな、って思った、てか確信した。
ともかく第一段階の準備は整った。
ひとまず、僕は再び前に出る。赤い九尾に最接近する。
さっきより余裕が出来た所為かもだけど、なんとなく僕は今、目の前にいる赤い九尾を見つめた。
やっぱり綺麗だな、この獣。
見た目に、神々しいや。
「真壁、一瞬でいいぞ!」
って西木田くんが叫んでる。
わかった、やってみるよ。
倒す、じゃないからかなり気持ちが軽い。
「手伝う? 秋くん?」
僕の横にスッと現れる春夏さん、その言葉に、
「いいよ、これ想定外の出来事なんでしょ?」
って言ったら、
「うん」
って、困ったなあ、って顔して春夏さんは素直に返事するんだよ。
だから、
「まかせて、みんなが力を貸してくれる、だからなんとかなるから」
「ありがとう、秋くん」
って言ってから、春夏さんはちょっと考えるようにして、
「もう、みんながここまで対応できるようになってるなんて思ってもなかった、秋くんだけしか見てなかった私だけど、今はもう安心できそうなの」
って言うんだ。
僕はその言葉にさ、なんだか嬉しくて、でもちょっと寂しくて、色合いが激しく変化するみたいな感情に包まれてしまったんだ。
だからかな、
「いや、まだ早いでしょ? これからだよ、本当になんとかできるかどうか、これからやるんだから、まだ喜ぶのは早いよ春夏さん」
って、一応の念を押していた。
「うん」
そう春夏さんは返事した後に、後方に下がる。
本当に、安心するのはまだ早いんだ。
確かに僕らダンジョンウォーカーは強くなってる。
きっと春夏さんが思うよりはずっと、おかしいくらい強く、そして、春夏さんの想像以上の仕上がりを見せてくれる人もいる。
だからかな?
一瞬、僕はそこに終わりが見えた気がしたんだ。
それはまだ早いよ。
まだ、いなくなってはダメなんだ。
いつか来る最後に、絶対にやって来るお別れに、それが垣間見えてしまった事がとても悲しかった。
でも、これだけはどうにもならないから、そう言う約束だから。
そんな事を考えていたからかな、僕の前に葉山の背中が見えた。
葉山は何も言わずに、僕に向かって来た攻撃を弾いてくれる、次から次へと、動きが悪くなった僕に向かう攻撃を弾いている。
「ごめん、葉山」
と思わず出てしまう言葉に、
「いい、これは仕方ない」
と葉山が言った。で、食らった。相手の攻撃を葉山の肩のあたりに入る。
「痛いなあ」
って呟く葉山に、
「ごめん、下がっていいよ、僕行くから」
と、慌ててしまって、そんな風に言ったら、
「真壁ってさ」
呟くみたいな言い方な葉山が、
「春夏のモノでしょ?」
うん、まあ、その言い方はどうかわからないけど、基本そんな感じだね。
「で、春夏はその真壁の為にこんな事をしてるんでしょ?」
僕の為って、僕だけの為って事はないかもだけど、そうかも。
そして葉山はいうんだ。
「そんなの絶対悲しいじゃない」
葉山がどこまで知ってるか、現時点の僕にはわからないけど、でも、まあ、それは仕方ないんだよ。最初からそう言う約束だから、僕は、このダンジョンにとってはそう言う存在で、春夏さんはそのものであって、これはどう頑張っても違えようの無い事だから、未来が明るければ、僕らはその約束に従って、離れてしまうって言うの最初から決まっていた事なんだ。
「私は真壁が傷つくのは嫌なの」
って葉山は言う。
僕に背を向けてるからどんな顔してるかわかんないけど、葉山がどこまで、何をどうし知ってるのかも、記憶を分離している今の僕にはわからないけど、でも、きっと僕を大切に思ってるんだろうなあ、って気持ちだけは、暖かく伝わって来るんだ。
「だから、私は真希さんも今日花さんも、今の時点では大っ嫌い、全部真壁に押し付けて、全部真壁にやらせて、今だってそうじゃ無い」
プンスカしてる葉山だけど、これって概ね僕の為に腹を立ててくれてるんだよなあ。
うん、まあ、そう言うのはちょっとなあ、って思うけど、それでも嫌じゃ無いなあ。