第244話【西木田君の本気】
そんな事を考えると、どうしてか僕は僕自身の持つこの剣に意識が向かった。
いやいや、切ってはしまわない、多分、この子なら本気の近い部分の気持ちであの赤いきつねだって斬ってしまえるって思う、でもそれじゃあダメなんだよ。
そう思って、僕は助けを呼んだって、そう言ってた、その人物を改めて見てしまう。
その時に僕は何かプランがあった訳じゃないんだ。
でも、どうしてか、その可能性を僕は感じていたんだ。
だからだろうか、西木田くんは僕の視線を受け取って、笑っていた。
そして言ったんだよ。
「ああ、それ俺だよ真壁」
と、同時に、
「ダメ!」
って左方さんが叫ぶ。
そんな彼女を無視して、
「なあ、神様、要は混ざった意識、漿液化した二つの意識が再び分離できればいいのか?」
と西木田くんが角田さんに尋ねる。
「そうだ、それができれば苦労しないがな、あの二人は意識こそ違えど、液体としてみるなら、全くの同一体だぞ、それほどの長い時間を二人で過ごして来た」
西木田くんは考える。
「なら、もう一つ液体を、例えていうなら全く異なる液体を混ぜてしまったら、最悪、この状況は回避できないか?」
その言葉に、あの、角田さんが、全部知ってる角田さんが、決して驚くことのない角田さんが、言葉を失った。
そして、今度は角田さんが西木田くんに尋ねる。
「そんな事が出来るのか?」
「ああ、多分、いや、一回やってるから、今度の方がうまくやれる自信はあるな」
と言った。
その言葉をまるで打ち消すみたいに、ほとんど稲妻みたいな勢いと感情で、
「翔!!!!!」
と叫ぶ左方さん。
「ダメ、絶対にさせない、そんな事絶対にやらせないから!」
うわ、凄まじい怒りだよ。これかなり本気なヤツ。何かなんだかわからないけど、ここは西木田くん、謝った方かいいよ。
で、左方さんは言うんだ。
「あの時だって翔はロストしかけたじゃない、消えてしまうのよ、消えちゃったら、もう探せないって言われたでしょ? 死ぬよりも難しい状況になるの! わかってる?」
そしたら、西木田くんはちょっと笑って、
「ああ、そうだな、あの時は本当に死ぬかと思ったよ」
とか言ってる。その西木田くんの笑顔が、僕がさ、今まで見たことのない笑顔なんだよ。
「真壁!、こっちは前に出て、防戦するから、あまり保たないかもだけど、相談がまとまるくらいまでの時間は稼いで見せる」
って下がって来た葉山が言って、また前に出た。去る際に、「絶対に助けようね」って言い残して行った。そうだよな、葉山もまた、このクソ野郎さんに助けられてるんだよね。その自覚は僕にもあった。
こっちの方に攻撃が及ばない様に、葉山と蒼さん、春夏さんが、赤いきつねを取り囲んで翻弄する様に攻撃をしてた。
そんな彼女たち、じっくり見なくてもわかる。結構、疲弊してた、急がなきゃ。
「真壁、入り口を見極めたい、あいつちょっと止められるか?」
と西木田くんが言うんだ。
「多分、可能だと思う」
僕はそう言うと、おおっと真っ黒の剣が僕の首に突きつけられた。
笑ってしまうのが、もう、あと一息で僕の首を刎ねられる距離にあって、その刃にはなんの殺意も敵意も無い。あるのは必死さと混乱。そして激しい憤りだ。
もちろん、この刃に対して僕はなにか言うつもりも、そして従うつもりもない。
「唯!」
僕に剣を突きつける聖騎士に、怒鳴る西木田くん。彼が怒る所なんて初めて見たよ。
「させないから」
左方さんは一言だけ言った。まるで彼女の底の方から呟く言葉は確かにその覚悟を僕にも伝えてくれる。
困った。時間が無い。
でも、ここで彼女と対立するのは僕では無い事くらいわかってる。
そして、僕自身が攻撃されようとしてるんだけど、どうしてか、この左方さんをなんとなく優しく、まあ仕方ないかあ、とか思っちゃうんだよね。
いや、だって、この人、どんな感情かわからないけど西木田くんが本当に大切で、その西木田くんを守る為には西木田くんに嫌われても良い、くらいの覚悟で臨んでるからさ、僕の首の皮一枚に触れらた刃が、ほんの数ミリの接触がそれを教えてくれる。
細かく、悲しく震えてる。
その刃を掴む西木田くんの手。
「いい加減にしろ」
止められてホッとしてる左方さん。
西木田くんってさ、いつも水島くんと鴨月くんとかと一緒にいて、怒りもせず、特に何かを主張する訳もなく、それでも僕から見るととても楽しそうにしてる印象があるんだ。
決して前には出ないけど、どことなく決定権を持ってて、みんなそれには納得してるって感じがさ、彼らもまた西木田くんの事をよくわかってるなあ、なんて思うんだよ。




