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第78話【でもなあ、さすがにタダって訳にわ……】

(サブタイトル「訳には」) 正直、バスタードソードの様な大型剣派の僕には今ひとつって感じだけど、でも、この剣を目にした瞬間に、なんかこの剣カッコいい。僕にピッタリ。これ以上僕に似合うものはない、もう、この剣最高! ブラボー! って言う押し付けが、来る。


 本当に来てる。凄い来てる。


 わかった、納得しよう。って決断をすると、その謎の圧力はなくなった。


 それに形もさ、昔からあるって感じのロングソードじゃないんだよ、現代のロングソードって感じ。


 剣自体が金属の鏡面仕上げではなくて、刀身に縞模様みたいな小さな線が沢山入ってる独特な感じで、ホームセンターとかでは見たことがないタイプの剣刃だ。


 それに、剣自体の造りである剣の刃と、持ち手である柄が同じ連続した素材でできているのも僕にとっては、ロスとか無くて良いって思えたんだ。


 先端も尖っていなくて、丸く刃幅の半円に加工されている。両刃が先端まで続いているイメージだね。これって、僕みたいなタイプな人間が激しい使い方をしても、細い部分がないから、折れたり曲がったりしないそういう加工になっている。何より、この大きさなら振りやすくて、片手で簡単に扱えそうだから、防御をライオットシールドに頼る今の僕にはぴったりの剣だよ。


 うあー、カッケー、スゲー、なんてハシャいでいる僕がいる。


 「よかった、気に入ってくれたみたいね」


 『オンコの棒』が折られてから僕はそれなりに武器を探していたんだけど、結局良いのがなくて、今日は春夏さんに頼んで、何本かある木刀の一振りを借りる手筈になっていた。


 昨日の今日だしね。昨日はギルドに呼ばれて、春夏さんも結局ダンジョンに行けなかったし、ダンジョンに入るのはやめておいたんだよね。角田さんは「えー」って不満を言ってたけど。


 手持ち武器ないんじゃ仕方ないでしょ、って説得して、近くのホームセンターであれこれ悩んで結局買わなかった。


 今度は妥協しないでさ、折角、短めのオンコの棒で培った短い間合いを利用して、中層階くらいまで使いそうなショートソードあたりを狙っていたんだけどね、それでも1万円くらいはして、ちょっといいなって思うと5万円くらいは軽くするから、真ん中くらいの狙っても、少しお金を貯めないとなあ、って結論に至っていたんだ。


 それにしても、このロングソード、多分、僕が選んだら、試行錯誤の挙句、散々時間をかけてようやく選んだ末にもっと他の物になって、使いやすいとか使いにくいとか、満足している中でも不満を漏らす結果になっていたと思う。


 だから、絶対に、たとえそれが些細でもどこか不満をもってしまうだろうって思うよ、特に武器なら、剣というならなおさらね。


 でも、この剣は本当に今の僕にピッタリっていうか、僕の要求を叶えてくれる。僕にあつらえてくれた武器だった。


 それでも、一般社会の常識とは法的に、冴木さんが困ったことにならないか、心配してる僕だったよ。


 だから、一回は返そうかなって思って、たぶん、そうしたとしても、今は僕の手に来なくても、時間の問題できっとこの剣は自分のもとに来ることはわかってるから。


 それよりも、僕としては、無断で持ち出してしまった冴木さんの立場とかの心配をしてしまったわけで、そのことに言及すると、特に「返します」って言ったら、あの地下歩行空間で、あれだけ人のいるところで、人目もはばからず、目を見開いて僕を見つめたまま、ボロボロと涙をこぼしはじめてさ。

 

 もう、そこから大変だった。


 冴木さんて、綺麗で美人でスタイルもよくて、そんな人が、中学生を目の前に、ボロボロと涙を流すんだよ。


 再び、注目されてるよ僕。


 で、本当に悲しそうな顔して、その大きな瞳から零れ落ちる涙を拭こうともせずにさ、冴木さん、


 「わたし、なにか悪い事した?」


 って、嗚咽しながら聞いてくるから、「いや、そうじゃなくて…」とか、「ちがうんです!」とか言っていたけど、真っすぐ僕を見つめて涙を流しづける冴木さんにはなんの効果もなかた。


 もう、本当に、冴木さんの泣き顔と、僕の方に注がれる視線と、好奇な囁きでさ、もう、本当に生きた心地がしなかったよ。


 人って、慌てて、恥ずかしくて、困って、それだけで死ねるかもって、発見した瞬間でもあったよ。


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