第233話【急げ厭世の奈落へ】
瑠璃さんと梓さんあたりを狙ってるみたいな奴を蒼さんが必死にずらして僕に向ける。ナイスな判断だね。
「お屋形様!!!!!!」
そう叫ばれた時には、その攻撃、うわ、14枚あるよ、蒼さんの食らった攻撃より2枚多いや。それを押し戻す様に斬りつけた。まあ、実際押し戻してるんだけど。
僕自身が振の剣の音、物凄い音してる、というか、超僕の好み。本当にこの子、ってか剣に対してこの子呼ばわりもなんだけど、どんどん僕の好みになって行ってる気がするのは決して気のせいでは無いと思う。
あんまりものを大切にしないって、母さんを始めみんなに言われてる僕だけど、最近、この剣に関しては愛おしさすら感じる時があるんだよなあ、昔は傘立てとかに入れていてごめんね、今は一緒に寝てるし、ちょっと自分の身から離せないでいる。
この剣にばかりには流石の母さんも僕に対して羨望の意思を示してるんだ。母さんいわく、自分もそこまで尽くしてくれる剣ってなかったらしいから、僕とこの剣が一緒のところを見て「いいなあ」って言われて、それを側から見たら、変な親子に見えるって葉山に言われた。
おっと、余計な事考えてた。
「申し訳ありません、秋様」
っていつの間にか僕の斜め横に桃井くん。僕の影からサーヤさんと仲良く顔だけ出してた。普通に怖い、で、そんな彼ら、ちょっと声が切迫詰まってた。
「奴に影が無くて、攻撃の引きに付いて行こうとしたんですがダメでした」
とか言ってる。
桃井くん、ネクロマンサー的な反撃を試みていたみたいだね。そうなんだ、それもダメかあ。
「じゃあ、逃げて、こっち有利な条件ってので戦うしかないね」
ってどこにいるかわからない角田さんに言うと、
「ともかく、ここより深度をとります、秋さん、どこに落ちたいです?」
いやあ、どこって聞かれてもなあ………………………………。
「狂王!『厭世の奈落』へ向かえ!」
PM2.5の中から桃さんの声が響いた。
「みんなそこに向かってる、そこでこいつを足止めして抑え込むって!」
そっか、わかった。
厭世の奈落か、あんまりいい思い出ないけど、確かにそこならって、何故か確信はあった。
「あの、真壁が私の為に沢山、泣いてくれた所ね」
違う、そこは剣の部屋、正式名称わすれちゃったけど、今度目指すのは、僕を葉山が遠慮なく殺そうとした場所だよ。
「そういう言い方しないで、隠されていた私に出会った場所とか、困った私を見つけた場所とかいいなさいよ!」
そして、そんな事を言う葉山への攻撃を凌いで、さらに薫子さんへの攻撃も凌いだ。
「真壁秋!」
だから、声を出さないで、こいつさっきから、音の鳴る方へ攻撃してるみたいだよ、見えてない、見えてる関係なくて、ただそこにいるからと言うか黙らせる目的みたいな感じで。
なんだろう、霧というかPM2.5の質か変わった気がする、前よりも息苦しくなって来た感じがするから、PM3くらいになったかもしれない。動きも制御されてる気もするし、この濁った空気全体が抵抗になってる感じがする。
同時に相手の動きも止まった???
「今のうちです、最初に嬢ちゃん達から、桃井と嫁はそのまま秋さんの影に入ってろ!」
と叫ぶ角田さん。
「抱かせるかよ! アモン、お前とクソ野郎は秋さんに固執して追いかけて来い!」
って叫んで、複数の転移門を次々と生み出す。
そしてその次の瞬間に僕らの周りの気配は次々に消えて行く。「おお、無詠唱じゃん」とか思わず感心して呟く僕に、
「では秋さん、よろしくお願いします」
って自分の開いた転送用ゲートに片足を突っ込んで、もうひと動作で逃げられるくらいのカッコしながら角田さんは言うんだ。
僕が????って顔してると、
「こいつは、基本的に上へ上へ行くのが本来の習性なのですが、稀に、後に障害になるであろう相手に出会うとそちらを優先します、なので敵の意識を秋さんに向けて、秋さんを追って来させないといけないんです」
いやいやいや、聞いてないし。
それって、この視界でガチで一対一でやれって言ってんの?
もっとそう言うことは先に言おうよ。
何もかも手遅れな感じだから、もう僕としては今更感があって何も言わないけどさ、
「じゃあ、俺も行くんで、あとは秋さん頼みますよ」
ってとってもいい笑顔で角田さん、ゲートごと消えて行った。
いやあ、ほんとどうしよう。あの獣化したクソ野郎さんとアモンさんの全貌は未だわからないけど、こっち見てるのはわかるよ。すごい見てる僕の事。
僕、完全に逃げ遅れた人みたいになってるよ。
まあ、ひとまず頑張るけどね。
本当に、僕の剣だけはいつもみたいに一緒だね。
なんてホッコリと考えてると、なんか波状攻撃みたいの来たよ。
さっきはそんなのしなかったじゃん。
ここ来て本気出すとかやめよ、お互いに。
と言うか、僕、ここからどうやって下に降りればいいのさ?
本当に、まあ、人がいない方が戦いやすいけどね。
じゃあ、頑張るよ僕の剣。
あ、そろそろ何かいい名前をつけてあげなきゃ、って本当に今じゃなくてもいい事を考え出す僕だった。