第232話【五里霧中の攻防】
刃同士のやり合いに負ける気はしないからね。
じゃあ、斬る。
力が乗ってることがわかるんだけど、なんと『罪槍バーゲスト』の方がそれを嫌った。
硬性と切れ味に関して僕の信頼は揺るぐこと無くこの剣だから、その気持ちが乗った刃に伝わる力が、正面から基軸をずらしているのに気がついた、そして気がついた時には再び、罪の鎖に縛られた槍は霧というか、埃の中に消えて行く。
その引いて行く鎖を追いかけるのは蒼さん。すげえ、あれ全く見えてないけど全力速度で動いてる、壁とか大丈夫かな?
「完全に空間を把握して動いているな、敵の正体は概ねの形を理解して動いている様だが」
と言うのは瑠璃さんだった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、今の所はだ、桃もいるしな、君も守ってくれるのだろ?」
「まあ、はい、そうです、大丈夫です」
とか適当な返事が出てしまう。
次の瞬間、なんか飛んで来た。
一瞬の判断だった。
受け止める。
避けなかった、ひとまず、近くにいた瑠璃さん、そして、その近くにいるであろう桃さんと梓さんの方も気になったけど、問題は飛んで来た方。
体にのしかかる良く知ってる感覚。良く知る重さ、そして有り得ない速度。
「大丈夫? 蒼さん??」
飛んで来たのは蒼さんだった。
「お屋形様????」
受け止められてびっくりしてるみたい、ちなみに、僕のお腹のあたりに顔がある、そして肩から首にかけて足がある。どんな体制?
ちょっと時間が無いから、
「どんな感じ?」
言葉足りないかなあ、って思うけどそこは蒼さん、
「硬いです、私の武器では攻撃は通りません、しかも反撃は同時に来ました、合計12発です、正面6割、左右3割、後方に1割です」
この子、また僕の為の布石になろうとしたな。
ってちょっと怪我してるじゃん。相手の攻撃凌ぎきれなかったんだ。腕とか折れてる感じがする。
「角田さん、PM2.5の対応はちょっと中止、その前に蒼さんを治療して!」
「わかりました、秋さん、そのまま」
って、僕、蒼さんを抱っこしたまま、うわ! なんか正面から来た!
ブン!って感じで空間ごと振り抜いて来る様な横薙ぎの一撃来た。
「葉山! 出るな!」
もう飛び出す瞬間、葉山自身が止められない状態を薫子さんが後ろに引き戻るみたいに止めた。
一瞬触れた相手の攻撃に、葉山驚いていて、「薫子!」って叫んで、薫子さんも、「余計な事をした」とか控え目に言ってて、「ううん、助かった」ってお礼する葉山だ。
一瞬の攻防とその接点に相手の攻撃の大きさや質を理解したんだ。
葉山は僕とその攻撃の間に割って入ろうとしたんだ。きっと蒼さんを庇ってる僕に飛んで来た攻撃を受け止め用途していたんだと思う。
でもダメだ、単一質量の問題で、葉山の武器じゃ凌ぎきれない。そう確信する僕は、この考えは自身の頭から出てきていない物ってわかってる。
だからと言っても僕の事を良く知る僕の中の僕って気配でも無い。
あ、そうか、これか………………………。
思わず、蒼さんを抱えてるから、自分の手に持ってるマテリアルブレードを見れないけど見つめる。
いや、剣が教えてくれてるって事?
自分の思いつきに、「まさかね」って呟いてしまって、でも、なんだろう、最近、本当にこの剣って僕に寄ってきてる感じがするんだ。いや、変な感じだけど、変じゃ無いんだよ。だって、僕も嬉しいから。
「お屋形様、回復しました!」
と言った瞬間には、蒼さん僕から離脱。戦線に復帰した。ってか早、もう見えない。
その間、前の方でPM2.5に包まれたぼやける視界の中では春夏さんがこちらに来る攻撃をいなしてくれている。化生切包丁で上手く流して、その中で何回か斬撃を入れてる。
「あ、あれでいいのか」
って、葉山は春夏さんを参考にして自身も前に出て積極的に攻撃を受ける選択肢をとった。
でも、もうダメかも。
相手もバカでは無いらしい、春夏さんのそんな対処に対処して来てる。
最初のうちは確かに有効かもしれなかったけど、今は時間稼ぎにもなって無い感じがする。何と言っても流してあらぬ方向に敵の攻撃を向かわせても、ほんの僅かで軌道を修正してこちらに飛んで来てる。何より、さらに複雑な動きをする様になって、この視界では対応が難しくなる。
「秋さん、準備できました」
おお、このPM2.5対策とかできたの? ダイキンとか???
「いえ、逃げます」
とか、角田さんらしく無い事を言い出す。いやむしろこの人賢者だから賢い事言ってるのか、そうだね、勝てない以上逃げるしか無いよね。
「この霧はあいつらが、この空間を利用して出ている霧です、つまりここは奴らにとって都合のいい世界に改築されてるって事です、だからこちらの有利、まで行きませんが少なくとも五分に持っていける環境に逃れて勝負します」
おお、なるほど、いいねそれ。
ともかく頷いて肯定する僕。あ、攻撃来た。