第231話【その危機はダンジョンから世界へブローアウトする】
どう倒そうか、どう対応しようかって考えてると、僕の脳裏にさっきまで泣いていた相馬さんの顔が思い浮かんだ。、
ああ、ダメだ、これ、きっと倒してはダメな奴だ。
だって、梓さんの言ってる事を鵜呑みにすると、これって多分、クソ野郎さんとアモンさんの成れの果てって事だし。
って今、僕に迫ってる獣じみた体躯と、その体の使い方、体の奥から唸るようにこちらに向けて来る敵意じみた意識なんかを総合すると、とてもそうは見えないけど、って思ってると、
うわ!
思わず反応した、とういうかできた。
僕、これ一回食らってる。
体が覚えてる、痛みを思い出した。
っていうか忘れもしない。
僕が唯一このダンジョンで、回避できなかった攻撃、その武器。
一瞬、その禍々しい槍、そしてそれをありえない動きをさせ、槍の軌道を容易く、そして複雑怪奇に変えて来る石突きから生える様に連結されている長い鎖。
『罪槍バーゲスト』が僕の後ろから飛んで来た。
前から襲われてるってのに、僕の背後から狙いすませたかのような一撃が来たんだ。
そしてそれは大きく円を描いて、再び、その獣、いまだ全容な見えないけどその後方にお尻のあたりかな、そこに巻き取られる様に戻って行く。
この槍で僕は確信する。この的確な攻撃の仕方で間違いない、これ、クソ野郎さんだ。
クッソ、この埃、早く晴れないかな、いまだ全容が見えない。
多分、大きな獣。それが今僕らを襲ってるクソ野郎さんとアモンさんの合体した姿。
なんて考えてると、今度は僕の周り、いや、きっとこれって僕を狙ってる。
中空に、次々と氷が現れる。それは人の大きさよりもまだ大きくて、音を立てて結晶化して砕けて行く。
かつて僕の腕を、ちぎれた腕を包んでくれた氷だ。
今はそれが狙いも定めず、まるで空間を凍てつかせんばかりに狂った様に出現し続ける。
きっとこの攻撃の対象は、氷に包まれて、さらに温度を冷やされ氷と共に砕ける。
救われているのが、相手も狙いを見定めてないって事で、最悪なのはこの攻撃を連発できるって事だね。
一箇所にとどまるとヤバイ。
踏み出す足にも違和感。まるで僕の重力をかき消される様の感覚。
青い月が、床に大きく描かれている。
気がついたら僕、床を斬ってた。
いや、もう、なんでそんな事したのかわからないけど、範囲が大きすぎき対応できないとは思ったけど、実際のそんな行動に僕自身も驚いた。
でも効果はあったみたい。
切られた青い月は歪んで消えてしまい、その効果を無くして行く。
危なかった。
この上、行動の自由、足場を奪われてしまってはもう、為す術もない。
なんて考えてると、僕の横を疾走する影。
僕の前でガチンと音を立てて弾けあう。
うわ、あの速度で入っても尚、体持ってかれるんだ。
と言うか、衝撃を逃す為なんだろう、葉山が一瞬横にぶれて、また戻る。
『罪槍バーゲスト』の一撃を横から弾いてこの効果だよ、一応、マテリアルソード二本の防御だったので、特に衝撃を食らった効果は無いみたい。ちょっと安心。
「すごいね、これ」
って葉山も呟いてた。
「角田さん、これどうにかできない?」
なかなか砂塵が治らない。いや、砂塵というか霧というかなんだろ、治る気配がない。最近はやりのPM2.5か?
どこにいるかもわからない角田さんに向かって、何をどうしていいのかわからない様な適当な質問をする僕。
「視界ですよね」
って何処からともなく声がする。
そうそう、ほんと助かる、察してくれて。
「これは、奴から効果的に散布されてますね、ちょっとやってみます」
だからか、ちょっと感覚も狂わされてる感じもしてるんだよね。ほんの数センチだけど、それでも、命取りになりかねない誤差だよ。
感覚もあてにならない、ともかく見えないとどうもならない。
ってか、効果的にガスってる相手に対して感覚だけで戦うってのはちょっと無理。
特に今回は、いつもみたいに力付くで斬って終わりにはならないから、この状況をなんとかしようと思ってるから。
それにしも最接近、恋人距離以下にすればなんとかなる感じだけど、あれかな、ミノフキー粒子を散布されたMS戦ってこんな感じかな?
ここ広いけど、顔突き合わせて戦わないとならないのはちょっと勘弁してもらいたい。
「クッソ、アモンの奇跡か」
となんか五里霧中の中で角田さんの愚痴だけが響いて来る。
「秋くん、大丈夫」
って僕の横には春夏さんが来る。最初から側にいた葉山はともかく、良く最後方にいた春夏さん、僕のところに来れたなあ。
「殿下! 来ます!正面、罪なる攻撃が一線、胸のあたりです!」
おおっと!
槍の先端と僕の剣の刃が衝突する。
さっきの声はサーヤさんかな? 助かる、これだけ待つ時間があったから、僕の刃に乗せることができた。