第229話【神と王、混ざり顕現す】
そんなこと言うからちょっと考えてしまって、いやいや、この人、どんな風にお母さんになるのかなって色々想像してしまって、そんな僕に、
「おいおい、人事なのかな? だとしたら君は相当に守られ、愛しまれてきたんだろね、受けた特別な物を全て日常と享受しているくらいに、当たり前として来たんだね」
と言われてしまった。
いや、だって僕、そんなすごい瑠璃さんた尊敬する人とか知らないし。
そんな僕の横で、
「あー、なるほど、またそこが繋がるんですね」
とか僕を見て葉山が意味不明な事を言っていた。すごい納得してた。
でもそうした夢を叶える前に、瑠璃さんにはやることがあるらしい。
それは、このダンジョンが、近いうちに消えても北海道経済に穴を開けない事なんだって。
今、北海道って、このダンジョン需要、ダンジョンからの出土品等(貴金属類)で潤ってるけど、瑠璃さんはいつもまでも、このダンジョンがあり続けるとは考えてないんだって、しかも近く大きな変化を迎えると読んでるんだって。
すごうな、錬金術師は予言もできるんだね。
って感心したら、また僕をジッと見つめて、
「ふむ、ここも他人事なんだな」
と呟かれた。
僕を見てこんな事を言うってことは、多分、春夏さん案件なのだと思う。
と言うことはこんな風に一緒に歩いている時間も、もう終わりは見えて来ているって事だ。
もちろん、そんなことの全容を僕は知らない。それは僕であ僕以外の僕の約束だから、その件に関して今の僕が納得しているはずもないんだ。
少し心が沈む。
「すまない、君は何も知らない、しかし、そのことに関しての感情は抱けるようだ、不安にさせた」
と瑠璃さんは言う。
うん、まあいいや、今があるってことは、ある程度は納得してるってことらしいから、これは瑠璃さんが謝る事でもない。
心の置き場に困って、春夏さんを見ると、きっと僕も同じ気持ちなのかな?、少し寂しそうに笑ってた。
だから、春夏さんが何かを言う前に、「大丈夫だよ」って言っておいた。
「うん」
って返事する春夏さん。
今はそれで十分だって、そう思う。
そして、この人達もまた、最近の僕らのよる所の、運営側って事だったんだな。
だからこれだけの事情を知ってるんだ。
「桃、一応、エクスマギナに声をかけておいてもらえるかな?」
と、突然、瑠璃さんはそんな事を言い出す。
そんな判断とは別に、僕も多少の違和感を覚える。
なんか変だ。
それはみんな感じていたようで、葉山も静かになってる。
うん、これ遭遇感だね、でも違うなあ、モンスターとの遭遇によって感じる物とか明らかに違う感覚。
例えて言うなら、ものすごい大きな地震とか来る前の予兆みたいのを感じてしまった感覚、これから災害級の津波が来る前の異様に静かな海。
そんな動物じみた感覚が僕らの前に大きく覆いかぶさるように降りて来ていた。
いや、正確にはしたら来てるからせり上がってる感じかな?
ともかく、このダンジョンでは初めて体験する、そんな感覚だった。
そしてその異変に一番激しく反応してるのは他ならない梓さんだった。
きっと自分自身でやった事なのに、桃さんにしがみ付いてガタガタとわかりやすい、畏れを抱いた表情で震えている。
そして、
「ああ、もう完成したんだ、私、うまくやれたんだ」
とか細い声でそんな言葉を呟く。
その言葉を聞いて、桃さんは、
「本当にやったんだな、よくあいつら相手にできたもんだ」
と感心しているのか、それとも絶望しているのか、そのどちらの表情が混ざった顔色をしていた。
きっとあいつらってのはクソ野郎さんとアモンさんを指しているってことはわかる。でも一体何が起こってるのかがわからない。
それにだよ、まだ厭世の奈落にすらついてない。階層はまだ3階層は下のはずなんだ、なのに、ここでその事を知れる感覚ってなんだ?
今までどんな強いモンスターと遭遇しても、ここまで気配というか攻撃する意思みたいな物を感じた事はなかった。
「ああ、そうかこれが慈愛の視線か………………………」
と、そう瑠璃さんはいうんだ。そして、
「愛に満ちて、等しく抱きしめ慈しみ破壊する為に、まずは私たちを認識したようだな」
と言ってから、
「来るぞ」
膨れ上がる意識、いや、破壊の意識。面白いのはその攻撃対象を、ねっとりとした敵意以外の視線かな? そんなものでまるで、自動に索敵し発見してマーキングされてる感じがする。
素早く走る視線に僕らが乗ってる。
その意味も、意志もわからない。でも捉えられた。
だから一直線にやって来る。
上下の階層の間にある天井やら岩盤やらなんて御構い無しに進んでる。
「出て来る!」
表層にその意志が突き出して来る。
何よりも衝撃が凄い。この揺れ、絶対に地表にも街にも影響が出てる。
そのくらい凄い揺れが僕たちを襲う。
僕らは今、間違いなく室内にはいなくて、通路を歩いているんだけど、そんなの御構い無しでそいつは、床を噛み砕くように現れた。
飛び散る床の破片は壁や天井に当たって爆発するように弾けた。