第227話【事象や理由や概念すら価値を生み出す錬金術師】
「だよな、もうお前の仕事は終わったんだ、これで終わりだって言ってたじゃないか、ならあとはどうするかこっちでいい様に決める、それでいいだろ梓」
と桃さんも念を押す。
「しかし、私にはまだそれを見届ける使命がある、この終わりを、ともに滅びる運命があるんだだから………………………!」
まとまってない言葉、切れ切れに伝える、そう言い切らないうちに、瑠璃さんが言う。
キッパリ、と言った。
「なら、それを私が買ってやろう」
と言った。
驚くのは僕ら、そして言われた梓って言われてる異造子さん自身。
「どうした? 値はそっちでつけていいぞ、買う、いくらでもいいから言ってみてくれ」
そしたらさ、梓さんは、
「いや、私はダメだ、罪だ、罪子なんだ、みんな言うんだ、くだらないって言うんだ、でもこの気持ちは止められない」
「罪か………………………」
瑠璃さんはそんな言葉を受け取ったって顔してまた言う。
「わかった、それも買おう」
「バカか! 罪を買うとか………………………????」
と言い返すものの、梓さんはわかりやすく混乱していた。
「急なことですまないが、こちらにも事情がある、売買や契約になれていないのならこちらが主導して行くがいいかな?、だから値段は言値でかまわんよ」
こんな荒唐無稽な商談に、何を言っていいのか、何を言えばそこにハマるのかすらわからなくなってる梓さんは、酸欠の金魚みたいに口をパクパクしてる。
すごいのは瑠璃さんが本気な事。全く冗談とか例えて、とかで言ってる訳じゃないくて、本気で梓さんに向かって商談を成立させようとしている事。
そして、瑠璃さんは言うんだ。
「だから、一旦、全部こっちに預けてくれると嬉しいのだがね、君が悪いと思っているもの、良いと思っているもの、くだらないと思うもの、あと幾らかの憎みたいなものもあるな、それと、今思ってる自暴自棄的なやりきれない気持ち、全部こっちにくれないか?」
言われた梓さんは、気持ちが抜けた顔してた。本当に素の表情。どこにでもいそうな女の子に見えるから不思議だ。
そして、瑠璃さん、片手を前に出して、まるで祈るように何かを呟いた、いや、違う、細かく息を吐いてるだけ見たい、魔法スキルって訳ではないみたいだ。
すると、掌から光球が出現、どんどん大きくなって、急にパッと消えて、その掌に黄色い布??
そして、桃さんがその布を手にとって広げると、うわ、Tシャツじゃん。すごい、瑠璃さんてTシャツを作るスキルとかあるんだ。
初めて見るスキルを目にして感心する僕ら、その様子を横目で見ながら、瑠璃さんは、
「そして、私と言う買い手のついた商品の入った、君自身を大切にしたいのだが、いいかな?」
「ほら、男子はあっち見てろ、女の子が着替えるんだからな」
と桃さんが言うから、一回、彼女達に背を向けて、僅かな時間で「いいよ」って声で振り向いたら、『留寿都』って文字が胸にでっかくプリントされた眩しいくらいの黄色のTシャツを着せられている梓さんがいた。
ああ、この人達か、この変なTシャツを異造子さん達に着せていたの。
服作る能力はすごいと思うけど、なんかセンスがなあ
そして、桃さんが、僕にそっと教えてくれる。
「もう大丈夫、これで梓は自暴自棄にならないし、死にたがりになることもない」
と、そして、
「これが瑠璃なんだよ、現代の経済って言う現象を自在に操る錬金術師、瑠璃が価値を認めた物は本人がどんな意思を持とうと簡単に破棄できない、そして何より共有の資産になるんだよ」
桃さんのいい笑顔。自分の一番大切な何かを自慢してる顔だよ。この顔だけで瑠璃さんが大好きなのがわかるよ。
そして瑠璃さんは言った。
「さて、狂王、ここからは君との商談だ」
と、あの時、一緒に温泉に連れてけ、って時と同じくらいの真剣な表情で言うからちょっとびっくりした。
「私は、一商人として、この巨大な市場である北海道ダンジョンを失いたくない、だから、このダンジョンの平和を担保してもらいたい」
と言った。
「私から出せるのは、今ある全財産と、私自身くらいの物なのだた、ここは快く引き受けてはくれないだろうか?」
そして、少し考え込む表情を見せてから、瑠璃さん、
「あと、皆の前で言うのは憚られるのだが、ギルド長は、自身のパンツをつけても良いと言っていたが、これが、決め手になるとも言っていたが、いいだろうか?」
もちろん、最後の奴、最後から二番目はいらないけどね。
いいよ、一体何が起こってるのかわからないけど引き受けた。
なんだろう、瑠璃さんと桃さんが来てから、なんか軽くなったけど、ともかくダンジョンには今までに無い危機が迫ってるって事でいいんだよね。
そうだ、クソ野郎さんのピンチだ、急がなきゃ、って思い出す僕だったよ。