第77話【なんだ、これ僕の剣じゃん】
僕は何か所かの留め具を外してドキドキしながらケースを開けてみると、そこには、今度はアルミの薄い板が張ってあって、そこの中心に『大柴マテリアル』の文字。
そしてこの武器の名前というか呼称であろう銘が記されている。『ELEMENT WEAPON size M NO,2(|Closed type《密閉型》)って割と大きな銘版がある。
どういう意味だろ、って英語を読もうとすると、視界がそれを拒絶するって言う、男子中学生にはありがちな病のおかげで、英字はなにやらカッコいいデザインとしてしか意識下に来ない。
あ、でも、その下、銘版から外れた下の方に、油性ペンで、『マテリアルブレード 密閉式 M型 2号』って書いてあった。丸っこい字で、たぶん書いたの女の人だな、って勝手におもいつつ、この剣を含む梱包の仕方に至って、この英字の銘版ともある中で、ちょっと軽さを感じた。
大柴ってあれだね、世界でも三本の指に入るグローバル企業じゃなかったっけ? 自動車とか、電化製品とか、鉄道とかもそうだね、数々の公共事業や、医療関係まで手広くやってて、創業者が坂本龍馬の関係者って言うくらいの由緒正しい超大商事だよね?
ケースの中にもその社印ってのが刻印されてて、僕も知ってるマークだから間違いないよ。
その下には、管理責任者の名前とかあって、さらにその至るところに『持ち出し厳禁』の印が押されてるんだよね。なんか呪いの封印みたいなかんじで、色も赤でものものしい。
ほんとうに、これ持ち出してはまずいのでは?
って思いつつも、こんな時だけどウキウキして中身を取り出そうとしている僕がいる。
だって、箱を開けるのってウキウキするよね、僕に対してのプレゼントならなおさらだよね。
この時の気持ちを語るなら、まあ、中身だけ見て、もしも冴木さんになにかまずい事が起こったら返してしまえばいいんだ。って、そう思ったね。
所持してるのは僕だし、なにかあれば少年法が適応されるから、反省すればゆるしてもらえるさ、くらいには考えてる。
そして、この剣を勝手に持ち出されてしまった、大柴という会社とかラボとか、警備員さんに至るとこまで、心配は波及してしまってるけど、ニュースにもなってないから、今のところは大丈夫だろうって、自分にとって都合のいい解釈して安心する僕だったりする。ってか、いまは梱包を開ける方に夢中になってるのでネガティブな事は考えられないよ。
もう、プレートはがして、何重にもなってる包みをほどいて、さらにビニルを取って、もう、見た感じは、ラッキョウを剥いてるサルかもしれない、今にもキャッキャって言いだしそう。
で、ケース内部のパッキンっての? 梱包されている品物が傷まないようにアマゾンの過剰包装よりもひどい中の布だの発泡スチロールだのを退かして、それは僕の目の真にあらわれたんだよ。
地下歩行空間の照明に照らされて、鈍く輝く刀身を見て、僕はこう思ったんだ。
ああ、大丈夫。
なんだ、そういうことか。
ってね。
つまりさ、この剣がここにあるのは誰のせいでもないんだ。
そんな僕に冴木さんは言うんだ。
「私は、この始まりから含めて、ある筈のない終わりの時までオーナーの剣です、それを持ち出したからとって、誰が咎められる道理はないのです」
その言葉は、冴木さんの喉を鳴して、冴木さんの唇から出て、冴木さんの声で僕に告られる。
なるほど、って思った。もちろん僕にこれがここにある理由も経緯も根本である原因も知らない。
全ては、それらはこれから先の未来で知ることになるって事だけは理解している。
この剣が僕の目の前に現れたって事はそう言う事なんだ。
だから持ち出された、冴木さんが黙って持ってきてしまったことなんて、大したことじゃないってかんがえる事ができるんだ。これで結論でいいって思う。
包装の中から現れたのは、見た目に普通っぽい、それでもしっかりと個性のあるロングソード。
まるで、僕の背格好にあつらえたかかのような、当たりの両刃のロングソードだったんだ。