第223話【フィンブルの冬、黄昏の時】
なんか僕が来る以前に相馬さんに告げた情報とは異なってるじゃん、この口で相馬さんにクソ野郎さんが死んだって言ったんだよね。
「いや、そういうのいいから、どうしたのか教えてよ、なんで相馬さん、彼女をここまで怒らせたんだよ?」
すると、その異造子さんは、
「あいつら本来の目的と義務を教えただけだ、なあ、ゼクト、そして、スペアの片割れもいるな」
と言って笑った。
ゼクトさまって角田さんでしょ、スペアって???
「何が愚王だよ、全員が等しく愚かな王だ、みんな喰われて滅びればいい」
と不気味な事を言う。
そして次に行ったのが、
「なあ、王たちよ、そして地底に横たわる名もなき偉大な白き神とその従者よ、
『フィンブルの冬』を知っているか?」
と尋ねた。
知らない。そしてその問いには誰も答えなかった。
すると、その異造子さんは笑う。
叫ぶ様に笑う。
そして、僕の耳にも聞いた事のある言葉を吐き出した。
「神による終末だよ! 黄昏の時が始まったんだ!『アドルの言葉』『バドルの夢』、破壊の神は今、王との融合を果たし、地上に這い出る、後は静寂に満ちた平和がくるだけだ」
いや、それ平和っていうかその静寂の来る前に絶対に良くないことが起こるよね。
その異造子さん僕の顔を見ていうんだよ。
「これはお前にも止められんぞ」
本当に勝ち誇った顔。
その顔のまま、
「傑作だったぞ、あいつらの最後をお前にも見せてやりたかった」
とか言った。
あいつらって、きっとクソやろうさんとアモンさんを指してるんだと思う。
ああ、この顔で、こんな言い方したら、そりゃあ、クソ野郎さんを師匠って慕ってる相馬さんならキレちゃうな、って思って、だから悟る、結局こいつも死にたがりなんだよ。
一応、僕が見たときには抵抗の意思っていうか、それなりに戦ってたけど、結局は相馬さんの怒りの刃に斬られて死ぬつもりだったんだな。
そして、そんな相馬さんもこの異造子さんとの戦いに迷いがあって、ちょっと危なかったけど、怒ってるけど、殺すには至れなかったんだ。やっぱりいい子だね相馬さん。
「あのクソ野郎さんが死ぬ分けないじゃん」
と僕は言った。
すると、わかりやすく相馬さんの顔に、この異造子さんと戦ってたときには真っ青な顔してた頬に赤みがさす。
パッと明るくなったんだよ、いつもの顔。いつもの明るい顔になってきて僕に掴みかかる勢いで言うんだ。
「そうですよね、そうです、師匠が死ぬ分けないですよね」
そうそう、第一、このダンジョンでは人は死なないしいね。
そんな風にその時の僕は、全てにおいて軽く考えていたんだ。だって、あのクソ野郎さんだよ。
どんな窮地に追いやられても、ああ、これ絶対に死んだじゃんって思う境地に飲み込まれていようとも、「死ぬかと思った」って言いながら無事に出てきそうなクソ野郎さんだよ絶対死ぬなんてあるもんか、って思ってたんだ。
それに加えてあの戦闘能力だよ。
万が一にも一人のときにはありえなくもない話かもしれないけど、あのアモンさんがついてるんだよ。普通に真希さんにも対応できるあの能力が、そう簡単にやられるわけがないって思うよ。
クソ野郎さんもきちんときっかり強いしね、個人としても、彼に拮抗できる能力を持つ人ってなかなかいないんじゃないかな? 第一、あの性格でも意外にみんなからは好かれてるってのもわかるし、そもそも敵になりそうな人が見当たらない。
それにさ、異造子さん達が彼の敵になったとして、クソ野郎さんが倒される事も想像できない。それほどまでに力の差は大きいんだ。
だとしたら、僕の知らない何かあるって事?
思わず、知ってそうな人を見てしまう僕。
角田さんは、角田さんにしては酷く考え込む様な表情になった。そして気になったのは桃井くんとサーヤさんのいつになく真剣な表情だった。いやあくまで表面は僕と似た様な感じだけどさ、でもそれを悟られまいとしているのもまたわかるんだ、桃井くんて心配を一人で抱える所あるから、その辺は前にも経験してるからわかるよ。




