第221話【心、かき乱され乱戦】
駆けつけると、そこには既にギルドの人たちがいた、というか知り合いだった。
相馬さんと鴨月くん。交戦中なのはいいんだけど、相手がさ、モンスターじゃなくてぱっと見、人っぽい姿。というか見て目には完全に人。
そうか、この子、交戦している子は、異造子の一人だと、僕にしては珍しく直感でそう思った。
今は、鴨月くんの支援を受けている相馬さんが、ガンガン攻めてる状態。
どう見ても旗色が悪いのは異造子さんの方だった。
いや、もう、なんだろう、相馬さん、ちょっとおかしく無いかな?
異造子さんも伸ばした爪とかで応戦してるけど、その斬撃が間違いなく相馬さんの体に薄くも入ってるけど、顔とかをかすめて一筋の傷が頬を走って、そこから血が溢れても構わず相馬さんは攻める。
意外なのはみんな死にたがりだった異造子の人、必死に防戦してるんだよ。いや、違うな、これ、多分、相馬さんお気迫に押されてるんだ。だからかな、表情も何処かおかしい。笑ってるんだか、困ってるんだかって表情にも取られる。
相馬さんて、その装備に相まって、ギルドでも戦闘技能おにスキルはないけど、ノービスな剣士としてはかなり強い方だ。
それに感覚系に飛び出た視界を使って、それをうまく使える身体能力も高いので、普通に強い。
言い方が変だけど、この普通に強いってのは相手にすると結構シンドいんだよ。
結局、戦闘って突き詰めてみると、互いが一番尖った部分での突きつけ合いみたいなところがあって、それなりに強い人って、かならすどこかバランスが悪い。特にダンジョンだとその傾向が強いね、でも、それが強さの礎なんだけど、いわゆる強い人ってそんな偏った人たちの事の中にあって、相馬さんって、きちんと強いんだ。本当に正式に強い。
多分、札雷館とかで師事を受けてるとは思うんだけど、急な変化は見えないけど、ジリジリと確実に一歩一歩を踏みしめて強くなってる、スキルやともするとセンスなんかに頼る人が多いこのダンジョンの中では珍しい子。
体の使い方が上手いし、雪華さんのお父さんに作ってもらったオリジナルソードも相性も抜群だし、塑る様に切り込む細身の両手剣、長さ的にいうと、バッソ(バスタードソード)よりもグレートソードに長さは近くて、細さはショートソードのそれで、変な振り方するとそれだけでも刃が速度と衝撃に耐えられない感じなのに、その限界を彼女の目で見極めて、綺麗に使い来ないして、本当によくやってる。
で、今、その相馬さんがちょっとおかしい。
「真壁、止めた方がいい」
と僕の横に立つ葉山が言った。その横の春夏さんも頷いてる。
うん、それは僕も思った。
だってさ、今僕らはこのメインの大通から小部屋に入ってきてるっていうのに、相馬さんも鴨月くんもまったく気がつかないんだ。
ひたすら、強化の魔法スキルを発動させてる鴨月くん。最近、補助系も覚えたんだね、優秀な魔法使いさんだ。
その鴨月くんがこちらに気がつかないくらい夢中に守ろうとているのは、防御なんてまるで忘れた様に、まるで狂戦士みたいに長剣ハースニールをぶつけてる相馬さん。で、攻撃されてる方は、その刃を受けながら、笑ってるんだ。
異常な光景だよ。
その二人が互いに打ち合って、斬り合い、傷つける小さな傷から飛ばす血が、あたりにい小さな赤い点を作ってる。その度に鴨月くんは強化魔法、多分防御系の魔法をかけてる。あ、今、回復系統かな? あれ多分、補助系統の回復だね、小さいけど長く、所謂リジェネ系ってやつ?
それがずっと繰り返されてるみた。
一瞬、相馬さんのハースニールが跳ね上がった。
うわ! 折れた、ハースニール折れた。
でもその表情は負けてない、ってか、許してない?って感情かな? ともかくこんなに怒ってる相馬さんは初めて見たよ。
それでも相馬さん、そのままの状態で、途中で変なふうに曲がってしまったハースニール振りかざして行く。上半身だけでも前に残して、剣を袈裟斬りに振り抜こうとしてた。
「ざまーみろ! あいつはもうこのダンジョンにはいないんだ! お前たちもみんないなくなれ!」
そう、今から斬られる異造子さんは叫ぶ様にいう。ガチで捨て台詞だ。声聞くまでわからなかった、短い髪型に、少し尖った顔つき、で、細くスレンダーな体は、まるで栄養の足りないヒョロくて長身な子供みたいな感じで、多分、女の子。
「うそつくな!」
二人が交わしてる会話の内容の方はわからない。でもものすごい怒り。
でも相馬さん、相当悔しかったのか、それともその言葉を否定したかったのかはわからない。でも、一瞬、体に必要の無い力が入ったから、それで遅れたから、僕は安全に間に入れた。
ひとまず相馬さんだ。
彼女を止める。
鴨月くんの防御魔法が効いていたみたいだけど、この異造子さんの爪、その上でも通ってる。もうボロボロだった。
「ここまでだよ」
彼女の手からハースニールを奪う。刃の方をつかんだけど、こっちもボロボロだった。ふらふらしてる。
相馬さんの腰のあたりを押さえて、「大丈夫?」って尋ねると、
「秋先輩?」
とても驚いた顔が僕を見つめている。そして急に重くなる。もう自分で立ってられないほどの体は疲弊してる。支える相馬さんの身体もか細く震えてるのがわかる。