第219話【王と神の正しい距離感】
薫子さんが端的に説明する。
「私の場合は譲渡だからな、前任者の麻生さんに教えてもらっているのだ」
と言ってから、
「このダンジョンにおける支配と共和、解放と放逐は紙一重だからな、自覚して付き合わないとあっという間に魔王になると言われた」
なるほどね、そう言うことか。
そして、薫子さんは、まるで思い出したかの様に、
「あと、あまり、王は神に寄らない方が長続きするとも言ってたな、私にはなんのことかわからんが、確かにそう麻生さんが言っていた」
ああ、そうか、それで角田さんと薫子さんて、なんかサバサバしてる関係なんだね。
麻生さんとも、主従って関係よりも、なんとなく距離を置いてく友人くらいな感じだもんね、薫子さんなんて他人行儀な所あるし。
葉山と妹は、家にいる時は一緒ってくらいで、葉山が一方的に妹をかまってる時があるくらいで、どっちかって言うと妹の方が葉山と距離を取ってる感じがする。
でもまあ、これって普通にどこにでもある人間関係に見えない事もないけど………。
そうなんだ。その麻生さんが何を言っているのか今一つ僕にはわからなったけど、そう言えば、クソ野郎さんの所のアモンさんも妙に人と、そして自分の指定する王様のクソ野郎さんとも一方的に距離を置いてる感じはするなあ。
「ああ、わかる、たまにはあるかも、なんて言うか吸い込まれるって感じの気分はあるわ」
と葉山は言った。
葉山の場合、家にいると、妹がいつも一緒にいるから、生活を共にしてるみたいなところもあるからね。距離は近いんだ。それでも妹も一緒にダンジョン潜ったりは、よっぽど目的がない限り、あまりしてないなあ。
特に葉山を聖王に指定してからはよほどの事でもない限り一緒に潜ってないね。
そう考えいると、薫子さんの方の神様である角田さんは、お互いと言うか完全に自由にやってて、薫子さんが僕らと一緒に行動する時はともかく、角田さん自身が薫子さんの近くにはあまり行くことってないような気がするから、もしかして意識して距離をとってるのかもって気がする。考えすぎって言えばそれまでだけど。
そっか、今更だけど色々気づけたなあ。薫子さん、色々知ってるなあって感心する。
確か、薫子さんて、何代目かの賢王なんだもんな、そのスキルとか以外にも情報とか受け継がれてるんだなあ、って思うと僕とか葉山みたいポッと出の王よりもよほど王様らしいよ。
「じゃあ、薫子さんも、ヒールとか使えるんだ」
って聞いてみると、
「私は使えん」
ああ、そうか人によるんだね。でもなんで言い方が不必要に堂々としてるんだろう?
って、納得したようなしないような僕のところから、こっちに来る葉山の所に駆け寄る薫子さんは、
「葉山、今の私にも教えてくれ」
とか言ってる。
「今、薫子に使えてないって事は、同じ王のスキルでも薫子の方にはないかもしれない」
葉山が普通に言ってた。同じ王様スキルでも違いはあるんだね、まあそうだよね。
「一応は試してみたいんだ」
と食い下がる葉山に、
「ええ、薫子不器用だからなあ」
「そんなことを言うなよ、頼む」
「帰ってからね、今はダンジョン優先だよ」
「ああ、無論だ」
って感じで会話が完結していた。
なんのかんの言っても仲良いよねあの二人。
ひとまず、ここの事態は収拾して、みんなでホッとしてる所に、角田さんと春夏さんが来た。
「無事ですね、流石にこの程度なら心配はしていませんが」
とまずは僕の身体の確認をしてから角田さん。
そして春夏さんは、
「秋くん、大丈夫?」
と言ってから、
「お腹の周り、溶解液?」
僕の腹部あたりに顔を近づけて真剣に心配してくれるけど、これ涙とヨダレと鼻水とかだから………、うえええ、もう本当に汚いなあ、脱いじゃおうかな、ジャージ。それに、洗濯しなきゃって思うけど、このジャージ、他の洗濯物と一緒に洗えないんだよ、『アセンブラXX』とか言う、雪華さんのお母さんから貰ってる制御系柔軟剤を入れないといけなくて、これ、間違って他の物を一緒に入れると、ほとんど原型を留めないくらいの勢いで溶かされてボロボロにされるから、薫子さんが一緒に下着を洗って悲鳴をあげてたな、同じ失敗をそれ見て知っていた筈の僕もしちゃったけどね、お気に入りのTシャツ一枚パーにしちゃったよ。