第4話【スキルとクラスと生ける伝説】
唐突な、感じな彼女、春夏さんの登場に、その時の僕は特に驚きもしてはいなかった。
結構前から言われていたからね。
先週くらいかな、僕がダンジョンに行くからと、母さんと話したら、「急な話で悪いけど」って断ってから母さんの旧友が、北海道に戻ってくるから、その娘さんがダンジョンに入るから、面倒見てあげなさいって言われて、今日、僕は、彼女と一緒にダンジョンに行くことになっていたんだ。
先に言っとくと、母さんに提案される事について、僕に選択肢なんて無いから。
うん、そう、わかった。
って感じだよ。
迷うのもないから。即答だよ。
母さんの口から出た時点で、それはもう決定事項だから、僕に拒否権は無い。
もちろん、『なんで僕が!』 とか、『面倒臭いよ!』 とか思わないシステムが僕と母さんの間にはできているので、文句なんて無い。
でもなあ、連れて行くことに問題はないんだけど、やっぱり記憶に無いんだよなあ。
母さんが言うには、僕は彼女、だから春夏さんに良くなついてた、って話だけどね。それが全然記憶に無い。
どうしよう、母さんがここまで断言するのだから、きっと忘れてしまってる僕の方が、薄情っていうか、なんていうか、僕自身そんな人間なつもりもないから、だからこそ心が痛む。
って思いつつ、チラッと、彼女を、春夏さんを見ると、
「秋くん、私の事、覚えて無いのね?」
って言われる。普通に言われる。特に不満もなく言われる。さもありなん、僕だから仕方ないって感じだから、ごめんね、ってのと、助かるなあって感情が入り交ざる。
確かに、僕は、人の名前とか顔を覚えるのは得意じゃ無いけど、流石に、春夏さんを見たら忘れないよなあ……
いや当時なら僕と同じだから4歳くらいかな、その、幼い春夏さんの顔とか思い出せないいんだよなあ。
その辺がすっぽり抜けてる感じ。誰かに切り取られたみたいな、そんな感じに綺麗に、端すら見当たらない。
そして春夏さんは言うんだ。
「じゃあ、約束も覚えてない?」
って。
約束????
何それ?
考えて、しまった! って思った。今の全開で顔に出ちゃったよ。
すると春夏さんはクスクスと笑って、
「いいわ、これからずっと一緒にいるから、ダンジョンの中ならそのうち思い出すと思うから、だからもう一度、この『身』を紹介するね」
と言って、自分の胸に手を置いて、彼女は言うんだ。
「私は……、この身は【東雲 春夏しののめ はるか】、今は、あなたと同じ中学一年生、保持スキルは、『剣聖』『強身体能力』『眼識』です、よろしくね、秋くん」
って一礼するその姿も、様になってる。
で、ここで気がつく。
え? 春夏さんって、スキル持ちなの?
しかも、『剣聖』って、それってもう、職業クラスとか名乗れるレベルじゃん。
なんで、そんなエリートな人が僕なんかと?
今のスキルなんて知ったらギルドとか黙ってないよ、他の団体だって引く手数多だよ。
普通に考えて、もったいないでしょ?
僕、なんのスキルも無いよ。ノービスで特に取り柄もないだたの雑多なダンジョンウォーカーだよ。
もうさ、普通にスキル持ってたら、ダンジョンでは勝ち組だよ。
ギルドとか入ると、お給料とかもらえるらしいんだ。
普通に働いてるお父さんやお母さんが凹んじゃうくらいの結構な金額をもらえるらしい。もちろん、ギルド以外の有力な他の組織もでもそれは同じ。
基本、ダンジョンって、儲かるんだよ。特にダンジョンも真ん中以降、深階層までは、宝石、貴金属の類まで、豊富に出現する。そして、その句会の深さになると、そこまで到達できるダンジョンウォーカーの勢力争いってのが顕著になってきて、たくさんある組織は一人でも多くの、スキル持ち、願わくばクラスを名乗れる強力なダンジョンウォーカーの加入を望むからね。
春夏さんのさっきいったスキルなら、たぶん剣系での最強クラス、『聖剣士』とか、でも春夏さん和テイストだから、『サムライ』とかかな?
どっちにしたって、今のところ1日100万人って言われるダンジョン内に数人しかいないってクラスになるはずだから、しかもこの美しさでしょ? 絶対に争奪戦になる。もう、契約金とかもらえるレベルだよ。
正直、いいなあ、って思う僕だ。
残念ながら僕にはそんなスキルはないからね。
そもそも、普通に一般にそんなにいない。
いわゆる100人中99人の凡庸な、いわゆるスキル無ノービスっていう、いわゆる普通のダンジョンウォーカーなんだ。いわゆるね。
でも、まあ、それでも救われてるのが、ダンジョン誕生から今に至るまで、地下地上を問わず、個人として最強だった人って、『スキル無の人』らしいって伝説が残ってるよ。
もちろん、それはどこまでが本当で、どこまでが噂なのかわからないけどね。ともかく、現実としてスキル持ちっていうのが、相当に凄い存在なんだよ。
そして、今、そんな人が僕の目の前にいるわけなんだな。
軽くパニクる僕に、母さんが言うんだ。
「ほら、いつまでそうしてるの? 行ってらっしゃいな、春夏ちゃん、秋」
って。まるで早くダンジョンへ行けって言われてるみたい。
そして母さんは僕だけをジッと見つめて、
なんか、いつもよりも真剣な顔してるなあ、なにか思うところでもあるのだろうか?
「あなたも、彼女に選ばれているのだから、しっかりね」
ってどこか念を押すように言われた。なんだろう、一緒にダンジョンに行けって事かな? それについては快諾してるから大丈夫だよ。
むしろ、僕の方がよろしくだよ、スキル的にもクラス的にも立場的にもね。
そのタイミングで春夏さんに手を引かれる僕。
「行こう! 秋くん!」
楽しそうな春夏さん。玄関を出る。
まるで光に溢れた世界に飛び込むみたいにさ。
僕の浮ついて満たない納得やら回収しきれない疑問やら、不可思議なこの気持ちなんて置いてけぼりで、なんなの? これ一体なんなの?
僕の腕には春夏さんの手、僕も目には、そんな彼女の微笑み。
具体的な形を造れない疑問に、張り付いて来る不安。
でも、なんだろう? それ以上に、どこかわくわくもしている。
普通に地味に、ギルドにレクチャーしてもらって、スライム消して、だから倒して、順序よく行って、ゴブリンとか出始めたら、『浅階層のジョージ』とかに挑戦しつつ、中階層には来年の今頃ぐらいには行きたいなって、地味でモブっぽい冒険の日々を一人で組み立てていたから、ともかく浅階層で地味に冒険初めてくつもりだったから、そんな希望をいい意味で打ち破られた気がする。
もうこの時点で、出発する自分の想像を超えてしまってる。
これから、真っ白な、全部、何もかもが始まるみたいな?
ああ、そうか、こう言う時のセリフってあれだね、なんってたっけ?
『僕たちの冒険は始まったばかりだ?』だったっけ? みたいな? あ、これだと終わっちゃうのか。
でも、本心から言わせてもらうと、なんか…?????だよね。
だって、スキル保有者とか、クラス持ちなんて、かなり深く、それこそ、高校生くらいになってから、何人くらいと出会えるだろう? なんて、思ってたらさ、それこそエルダー級以上のモンスターとかの遭遇率に近い希少な人が目の前にいるんだよ。
10000人に一人に会う確率?
しかも、『公認』されたサムライや騎士なんて、全ダンジョンウォーカーでほんの数人だよ。
!!!に混ざっての大量の?????しかないんだ。
ええ?
全く以てええ??? だよ。
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