第214話【至る所でミスマッチ】
腰のあたりに、葉山にぶら下がってる女子と同じであろうパティーメンバーの男子が3名ほどしがみついてる。だからこっちも身動き取れないと言うか、今、ここに固定されてる。
僕よりも年下っぽいけど、僕なんかよりも体格がいいから、これムリに振りほどいたら怪我させてしまうかもだよ。本当の怖かっただろうね、ダンジョン入って何日目かわかんないけど、数える程初心者ダンジョンウォーカーの前にこんなガチのモンスターが現れたんだから。
「ダメだ、離れん、このままにしておくぞ」
って僕から男子を引き剥がそうとしてくれてた薫子さんは諦めて、モンスターの方へと対応するために離れた。
懸命な判断だと思う。まあ、この程度なら薫子さん一人でも大丈夫だよね。って切りに行ったよ薫子さん。
あ、浅階層のモンスターじゃないから頭いいよ彼ら、ほら、距離取られて囲む様に攻撃され始める。
薫子さんの防御力と技術では心配はないけど、小馬鹿に小突かれてるみたいな流れになって、あ、切れた、薫子さんウッキー状態になってる。
だから、空に飛んだら剣じゃ追えないよ、あ! 投げた! カシナート投げたよ薫子さん、しかも当たった。
で、落ちたよ中級悪魔、助けてもらえてる僕だけど、不謹慎に笑ってしまえる。
そして僕にしがみ付く腕からは、本当に怖いんだね、ガタガタと震えが伝わってくる。
見た所、新人ダンジョンウォーカー、装備も硬化ビニル製の剣に、同じく硬化ビニル製の盾、服装はどう見ても学校のジャージだ。
普通に浅階層に来て、紙ゴーレムあたりと戦おうとしていたら、絶対に浅階層にいる
筈の無い強力なモンスターと出くわしてしまったんだから怖くもなるよね。しかもダンジョンウォーカーに対して本気で殺しに来てるし。
あっちの女子もそうだけど、こっちの男子も涙目だよ。
「あーもう! 死んでも綺麗に生き返るから、大丈夫だから、ちょっと離して!」
って女子に拘束されて身動きできなくなってる葉山もとうとうキレ始めた。
ああ、そんなこと言われた女子達は、ますます熾烈に葉山にしがみつき出したよ。逆効果もいい所だよね、生き返れる事実よりも普通は死ぬ事を受け入れないからね。
で、身動きできない僕の方にはさっきから中級悪魔の、リリスさんのように固有の名前は無く、ダンジョンウォーカーからはその存在通り『中級悪魔』とか、レッサーデイモンって言われ方の方が一般的らしい。
上半身裸でさ、頭と下半身が獣で後は人間な感じ、ここ北海道だからかな? 羊とかクマとか時にはエゾリスタイプが多くて、今は羊が多い感じ、一匹、鳥がいるなあ、これなんて鳥だったっけ?
「エトピリカよ!」
ってしがみ付かれながら、それでもなんとか応戦している葉山はしっかり答えてくれた。
なるほどね。そうなんだね、ありがとう。
あ、モンスターに対応している薫子さん、ちょっと苦戦してる。あ、もう一回カシナート投げた、あ、残念、今回は外れたね、で、武器を手放した薫子さん、今度は追いかけられるね、あ、またキレた、今度は拳で殴り始めた、凄い、羽掴んで、残った右手で殴る殴る。なんか叫んでるし。なんだろう、助けられている僕なんだけどちょっと面白くて笑えてしまえる。
それでもこの程度の敵に苦戦してるのは、薫子んさん、こっちにモンスターが行かないように器用に立ち回ろうとしてるから、なかなか戦果が出ない感じ? 不器用だけど優しいよね、薫子さん、こっちは守るくらいできるから好きにしていいのに。
で、中級の悪魔に襲われているんだけど、どうもいつもの感じでは無いんだ。
浅階層に深階層のモンスターがってミスマッチの話じゃなくて、あの深札幌で出会ったモンスターな素の人たちとは違う感じがしている。
一応、暗黙のルールでは、僕らはモンスターに出会ってしまった以上、特定モンスター以外とは交戦しないといけないってことになってるんだ。運営側として、このダンジョンの仕組みみたいな物を他のダンジョンウォーカーに悟られるわけにはいたしいからさ。
もちろん、モンスターなみなさんはいくら叩いても、斬っても、潰しても、燃やしても、バラバラにしても、死なない、というか彼らに死というか消滅の原理原則が無い。
戦いに敗れて倒されたダンジョンウォーカーに対して死を演じた後に消滅、そのまま任意でタイミングを見計らって生き返るというか、復活するんだ。