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第75話【あ、これ僕の剣だ】

 差し出されたのは、まったく、抵抗もなくそのケースを疑うんだ。


 おかしな、一応は遠慮とか用心するのが普通でさ、こんな無遠慮で手に取るなんて、僕自身が信じられない。さも、当たり前って感じで、まるで心なんて平静で、むしろ、『やっと来た』なんて、おかしな意識もあるし、それを当たり前って思ってる。


 まるで、誰かにそれを肯定されるみたいにさ、これ、僕の、って思う不思議な感覚だった。


 ? だからと僕は何も考えないで、その細いケースを受け取って、その大きの割にズシリとくる重さに、迷うことなく閃いたのいが、いや疑いなく『剣』だ。


 いやだな、僕。こんなケースに入れられてたら、確かに剣が入るにはちょうどいい大きさかもだけど、それが剣ってわかるんだよ? もしかしたら、フルートとか長めのたて笛かもしれないし……。


 自身の直感を疑う僕は尋ねるんだ。


 「これは?」


 「ほら、私たち、真壁くんの『武器』、壊してしまったでしょ?」


 正確には君島君さん、ああ、もうめんどくさい、年上だけど尊敬もできないから呼び捨てでいいや、その君島が僕の持っていた、浅階層ですら使い物にならなかった妥協の産物『オンコの棒』をヘヤ! って折ったんだよね。


 広義的に考えると、あの場所にいたのはみんな札雷館なわけだから彼女の言うところの『私達』で、あってるんだけど、それでも冴木さんは、そういう暴走とかを止めに来てくれていた訳で、どちらかというと、僕の方の身を案じてくれた人で、彼女も君島と一緒だなんて考えてはいない僕だったけど、こういう体育会系な人たちって、僕にはわからない団体的な思考を取るから、ほら、全体責任とかさ。


 「その代わりと言ってなんだけど、この武器を受け取ってほしいの」


 これ、これだけ厳重にケースに入ってるっての、剣だとしたら相当に高価なものだぞ。


 さすがにオンコの棒の対価として、ありえないでしょ? 


 これは予想だけど、あの、僕が欲しかったカシナートよりも高価なものに違いないって勝手に思った。


 「いや、こんな高価そうなものはいただけないです」


 ってさすがにドン引いて言ったら、


 「高くなんてないの、大丈夫、勝手に持ち出したものだから」


 って言うんだよ。文字通り取り繕う様に言ってる。素直に言ってしまってるから嘘ではないと思う。


 一瞬、僕はその言葉を聞いて、聞いてから、しっかり受け止めてから、その言葉の内容に驚いてしまう。


 え? って思ったんだよ。


 すると、冴木さんは、同じ笑顔で、同じ声で、なにも変らないそんな表情で説明を開始したんだ。


 それはとんでもない内容だった。


 「あのね、私防衛庁の職員の人に、偉い人なんだけど知り合いがいるの、で、その人がね、いつも仕事の話をしてくれるんだけど、今、大柴マテリアルと大柴重工業が合同で、素粒子レベルから現代の技術の粋を集めて制作してる『剣』があるって話を聞いてて」


 うん、うん、って頷く僕。


 っていうか、その防衛庁職員って、そんなにべらべらと情報を漏洩させていいのかな? って違う心配もしてしまった。大丈夫かな、この国の防衛って?


 そして、冴木さんは楽しそうに説明を続けるんだ。


 「でね、それって、他に類をみない強力な剣なの、なら真壁君が持つべきなのって考えたの」


 普通な声で、どこにも異常は感じさせない態度に表情なのに、言ってることだけがどんどんおかしくなってる。


 「だから私、おねがいして、その剣を見せてって頼んで、大柴マテリアルのラボに連れて行ってもらったの、でね、ほら私、警察官でしょ?だから、見せてもらってる状況を見てね、これなら簡単に持ち出せるなって思ったの」


 どんどん冴木さんの言葉が、そなまま常軌を逸し始めてくる。だから、


 「あの! 冴木さん!」


 って話を遮る。


 「どうしたの真壁君?」


 きっと、その時、僕は驚いていた顔をしていたんだと思う。


 だから、冴木さんは、一瞬にして表情を曇らせて、


 「……私、真壁君が困ることをしたのかしら?」


 って言いだす。不安げに僕に訪ねてくる。


 いや、そうじゃ無くて…、


 「いや、僕は困らないけど、冴木さん、それとその防衛庁の人が困った事にならないんですか? 勝手に持ってきたんですよね? それって、盗んだことになってないんですか?」


 僕がそう告げた瞬間に、冴木さんは、ホッとして、


 「なんだ、よかった、私達の事はいいのよ、わたしにとっては真壁君の事こそが大事な事なんだから、真壁くんに喜んでもらえるなら、そんなことはどうだっていいの」


 一点の迷いも、曇りもない冴木さんの笑顔。


 良い事とか悪い事とか、そんなものは彼女の行動理由には当たらない。


 僕はこの時、この前の君島以上に話が通じないって思った。もう彼女、冴木さんは、この行動と言動に関してまるで迷いなんて持ってない。


 唖然とする僕に、彼女は話し続けるんだ。


 どこもかしこもおかしくない口調で、平然と、当たり前に語るんだよ。

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