第206話【滅びたがるダンジョン生まれての子供達】
そこはダンジョンのスライムの森、そしてギルドの本部で、保健室だ。
彼は、上半身をベッドから起こして、上品に、とても落ち着いた顔して入ってきた僕の顔を見て、こう言った。
「この前は色々お世話になりました」
言われると、僕も、
「いえ、特に僕は何も」
と言うと、
「いえいえ、そんな、従者の方に手を抜かれた上に上品に意識を絶っていただきました」
「俺、こいつの従者じゃ無いぞ」
不満そうに呟く茉薙に、
「茉薙はちょっと黙って」
と葉山に制されるみたいになってる。
ヒョロイ好青年風のもう一人の異造子さん、以前見た印象とは全く違っていて、普通にいい人っぽく見えるからちょっと困る。
しかも優男っぽくて、ススキノとかにいそうな感じに見える、まの敵対してる時はどちらかと言うと尖りきった肉食の獣ぽい雰囲気を醸し出していたけど、今は普通の優男っぽい。
「あ、俺、柾って言います」
とベッドに上半身を起こした姿で頭だけペコリと下げた。
拍子抜けするくらい礼儀正しい人だ。普通に話も聞きやすく、こっちからも言いやすそう。
今、榴さんとのお話を終えて、二人目の人と話してる所、だからまだ保健室の中に並ぶベッドの一つ、この前倒した、順番的に言うと、二人目に倒して、正確にいうなら茉薙が倒した人。
茉薙曰く、
「こいつ全然弱いんだ、こいつら多分、大したことないぞ」
って言ってた。
そして、
「こら、茉薙ダメでしょ、そういうことは口には出さないの、人からの心象が悪くなるわよ、いい子になさい」
って雪華さんに怒られていた。さすが雪華さんだよね、こんな時でも茉薙の躾の為に予断がない。
現在、異造子達の外で起こっていた突撃騒ぎもすっかり治って、ギルドの方も撤収して、雪華さんも真希さんも本部の方に戻ってきて、茉薙がこっちにやって来て、雪華さんが付いてきたって感じだね。
で、もう一人の異造子さんも、この柾さんも、ここに寝かされていて、こっちの方ともお話をする事になっていたので、僕はここにいる。
ちなみに柾さんの来ている黒字のTシャツの胸ものとには、黄色いポップ文字で『興部』と明記されてる、本当にこの服与えた人、どんなセンスしてるんだろ?
あ、違うよ興部がどうこうじゃなくて、この色に文字のポップがさ、それにTシャツとして地名を使うんならもうちょっと色々と表し様もあるんじゃないかなって思ってさ。
興部町は良い所だよ、オホーツクの麗な青色の海が印象的な、モーモー城とかも有名。カニとかも美味しいよね。ともかく牛な印象。
そしてどうしてか、榴さんもここにいる。
そんな中、この柾さん、僕の顔をジッと見つめて、その視線を下げる、もう何見てるかわかる。
「ああ、この剣が全てを斬ってしまえる剣なのですね」
と剣に視線を移して言う。
「なるほど、ダンジョン産ではない、あくまでそちら側の世界で作られたオリジナルの聖剣なのですね」
とか言ってた。
ああ………、この展開、何を言い出すか、何となく予想が付く。
「狂王であるあなたにお願いがあるのですが………………………」
一拍置いてから、柾さんはそのままの姿勢で首を前に出して、
「お手数ですが、そのなんでも切れるその剣で僕の首を跳ね落としてください」
ほら、来た。
もちろん、
「いや、やらないし、跳ねないし」
と即断即決で断った。
「そうですか………………………」
残念そうにそう言う柾さんだけど、何やら言い返したり、それ以上の懇願がないところを見ると、だいぶ榴さんとは同じ異造子でもタイプが違う。まあ、人なんてそれぞれで、同じ異造子だからと思っていた僕の方が常識外なのかもしれない。
本当に何でこの人たちはどうしてこんなに簡単に死にたがるのだろう?
やる事が終わった、だから生きている理由が無い。簡単に整理すると榴さんと柾さんの言う事は一緒だ。
一体全体どうしてこう言う思考に落ち込んでしまうんだろう?
「こいつらはこのダンジョンから出たことがないんだよ、閉じた世界の中でショボくれて生きてきたんだ、したっけ、陰々滅々な思考回路にもなるべさ」
と横から口を挟んで来たのは、手の空いてところで来てくれた真希さんだった。
「あ、真希さん」
「うん、ご苦労だったね」
って、外で戦ってた真希さんが、話をしていた僕にそんな風に礼を言った。
「いや、だって、話していただけだし」
と言ったら、
「それでいいんだべ」
とか言われて、
「こいつらみたいのには、アッキーくらいの話し相手が丁度いいんだ」
と言った、そして、
「頭のいい人間が遠慮なく話すと情報量が多くて、こいつらを追い詰めてしまうべ」
ああ、なるほどね。僕くらいの残念な知識量くらいが丁度良いって事だね。