第203話【誰もが望む誰も望まぬ平和】
人って自分より劣った人への対応って概ね3種類でさ、バカにするか、無視するか、優しくなるかのいずれかだからね、僕の周りには最後の人が多い気がする。で榴さんもこの一人って感じだった。
「つまり、世界を『平和』にするって意味???」
僕がなんとか言葉少なげに、彼女の言葉を組み立てなおして伝えると、
「そうだ、わかってるじゃないか」
って言った。
正直、心の中では、いや、わからないよ、って今も思う。だって、言ってることは平和を、でも実際やっている事はそれとは大分かけ離れているから、普通に混乱する。
混乱するって事は、今まで起こった事実と、彼女が言っている事を今の時点で混ぜて考えてはダメって事だよ。だから、今は彼女の言い分を聞いてみる。
「なんかこの子の言ってることっておかしくない?」
葉山がそっと耳打ちするんだけど、僕は、葉山に、「しっ」って言ってちょっと口を閉ざすように促した。
ほら、頭の悪い人同士の会話って、頭のいい人に入られてしまうと、色々と頓挫してしまうから、今は葉山には入ってもらいたくないんだよ。
さて、気を取り直して、
「今のままでもこの世界は十分平和だと思うんだけど」
と榴さんに質問を向けてみた、正直に思ってることだから、なんの違和感も無い。
すると、榴さん、
「あはは、お前は本当にわかってないな」
って笑われてしまう。バカにされてしまう。それほど嫌な感じはしないな、むしろようやく普通の表情が出てきて安心した。だから僕も笑ってしまったんだろうか? そんな僕の顔を見て葉山はちょっと感心っていうより複雑な表情をしていた。
そして榴さんは言った。
「この世界の人間は、『魔法』も使えないんだぞ」
って言う。
いや、ダンジョンに入ってる人は結構使えてる人はいるよ? って言おうと思ったけど、そこは問題じゃない気がして、一応は頷いて黙って聞いておく。
「かわいそうだと思わないか? 魔法も無く、どうやって生活する? 火は? 水は?、移動だって不便で仕方ないだろ?」
とか言われて、
「確かに魔法はみんな使える訳じゃないし、僕も使えないし、それに移動は歩くとか?」
って突いてみたら、榴さん大笑いする。
「だからか? だから浅い所でウロウロしてるのは歩き回ってるのだな、バカだろ?」
よしよし榴さんのテンション上がって来たな、この調子、この調子。
「でもさ、僕ら結構、君たちに色々されて来たよ、酷い事とかも」
「それは仕方ないんだよ、混ぜないとな、平で和やかにならないんだよ」
ちょっと考えてみる。つまり、アレかな、この人と言うか榴さんの人たちの言うところの平たく和やかな世界って、前に聞いていた、全てを混ぜあわせる、とか、以前僕がその勢力に認定されていた、ダークファクト的アレか?
バカみたいな言い方だけど、
「君達は、混ぜて平らにするのが目的って事?」
僕の率直な言葉に、葉山の顔色が変わった、でも我慢して、思い浮かんだであろう疑問を口にする事なく黙って事の成り行きを任せてくれた。
葉山の顔色が変わるくらいの新たな情報。
つまりさ、この北海道ダンジョンの存在の意義、そして、真希さんが言っていた製作者の目的って事だから。この『混ぜた平たく和やかに』ってのが方法なのか目的なのかはわからないけど、つまりはそう言う事なんだ。
榴さんは言う。
「まあ、お前にその為の力の半分を持って行かれた時は焦ったけどな、でも、そんなお前も私たちの対局に立って、全てを混ぜてくれていたからな」
とか身に覚えの無い事を言われてしまう。
そして、
「全てを歪める力の極点に立つ世界を狂わす王、お前に相応しい呼び名だろ? 王を偽装する、王の中の王よ、ついに我々側の三人目の王も指名できた、全部最大の敵であり最大の障害であるお前のおかげだ、なあ聖王様、これほど皮肉な事もないだろ?」
と、葉山に突然話を振るもんだから、
「あなたの、言ってる意味がわからないわ」
と葉山は、わかりやすく敵意を向けて榴さんに言う。
「そうか、わからないか? そうか………………………」
と言って榴さんは身を伏して笑った。声を殺すように笑った。
「本当に、魔神はその意識を削がれ、目的を忘却してしまったようだがな、まあ無理もない、3歳程度のガキに木っ端微塵にされればな、自我も崩壊するだろう」
と、ひとしきり笑った後、そんな言葉をつぶやいて、そして、僕らに向けて、いや、ここは葉山に向けて言った。
「いずれお前もわかる、そして、わかった時にはどうでもよくなっている」
その目がさ、人のものじゃなかった。
黒い筈の瞳が浮かび上がるくらいの鈍た銀色になる。まるで爬虫類みたいな目だった。
だからかな? わかるんだよ、これって僕らダンジョンウォーカーにモンスターがわかりやすく向けて来る敵意なんだよ、ってか害意だね。